会社の会計シリーズ(理解編)第11回:税効果会計の1Column

  vol.0070
ラボン博士
前回でキャッシュフロー計算書の解説が終了し、本来ならば、「連結財務諸表の作成」について解説すべきところじゃが、子会社や関連会社がない企業も多いことから、連結会計については別の機会に譲ることとして、今回からは、会計ビックバンの点火装置ともなった「税効果会計」について解説する。

1.税効果会計とは?

結論から言うと、税効果会計というのは「税と会計のタイミングの差を調整する会計手法」なのじゃ。税効果という名前に惑わされて、どんな税法上の効果があるのかという視点で捉えようとすると、混乱しやすいので注意してほしい。


1-1.企業会計に影響を及ぼす税法とは

まずは、どうしてこのような会計手法が必要なのかについて解説しよう。税効果会計が導入されるようになったのは、1999年からじゃが、それまでの「会計」は、本来は全く別物であるはずの「税法」に引きずられて、正しい数値で財務諸表を作成できていなかったのじゃ。


ここでいう税法とは、主に法人税法のことを言うが、この法令には「会計」についての規定がある。法人税法は、会社にどのようにして税金を課し、徴収するかを定めた法律じゃから、基本的に、会社は税法に従って財務諸表を作成する義務はないのじゃ。しかし、実態としては税法にしたがって財務諸表を作成しており、会社の経営実態を表すことができない点に問題があったのじゃ。


これは、法人税の仕組みに大きく影響を受けているためじゃ。税法そのものは、国が政策的な意図をもって決める事項が多いので、理屈では説明しきれない決まりごとが山ほどある。こんなものを一々全て覚える必要はないが、「考え方」というか、税法の「捉え方」は知っておく必要がある。


1-2.利益と課税所得

会社が財務諸表を作成する場合、収益から費用を差し引いた「利益」を計算することが目的じゃが、税法の場合は、「課税所得」を算出して税率を乗じ、税額を計算するのが目的じゃ。これまでも、この講座の基本編などで何度も触れてきたが、課税所得は、「益金」から「損金」を引くことで算出される。


普通に考えれば、「益金」は企業会計上の収益に、「損金」は費用に似ておるが、この、「益金・損金」と「収益・費用」は計上されるタイミングと対象となる範囲が異なっており、これが、税効果会計を理解するための大きなポイントとなる。


2.税と会計の目的の違い

端的に言えば、税法は、企業にできるだけ多くの税金を課すことが目的で、企業会計の目的は、利害関係者に、生み出した利益などを正しく示すことにある。企業にとっては、経営の実態を正しく示すと、税法との仕組みの違いによって課税所得が増え、税金が増えると言うジレンマがあったのじゃ。以下、例を示して解説する。


(表1)収益・費用と益金・損金の関係

〔設例〕

収益:1,000、費用:700、利益:300、税率:30%という企業の場合


1)収益と益金、費用と損金が同じ場合は、課税所得は300となるため、税率の30%を乗じて税金は90となる。



2)税法の規定で、費用700のうち400しか損金として認めてもらえない場合、課税所得は1,000-400で600となり、税率30%を乗じると、税額は180に跳ね上がる。



※ このように、益金の額が大きいほど、また、損金の額が小さいほど課税所得が大きくなって、税額も多くなる。税法では、益金が多くなり、損金が少なくなるような決まりがたくさん定められておるのじゃ。企業会計は、会社の経営実態を正しく表すためのものじゃが、税金が増えることを嫌って、税法に従って計算書類(財務諸表等)を作成するケースが多かったのじゃ。



(表2)損金が否認(認めてもらえないこと)されて課税所得が増加する具体例

〔設例〕

(表1)の企業の例で、費用700のうち400しか損金として認めてもらえない場合、差額の300はどなるのかについて解説する。


企業会計の立場では当然に費用として計上しなければならないものでも、税法上は、課税所得の計算上、その一部しか「損金」として認めないものがあるが、一番分かりやすいのが「貸倒引当金」じゃ。この設例で、損金として認めてもらえなかった300が貸倒引当金だとしたら、どのような扱いとなるのだろうか


貸倒引当金は、債権のうち回収不能となることが見込まれる部分について、予め費用として計上するものじゃ。貸倒れは、事業を行う上ではリスクとして把握しなければならないものであり、企業会計上は、貸倒引当金を全額計上することで「費用・収益」が対応して、会社の実態を正しく表すことにつながる。


しかし、税法では、貸倒引当金の繰入(計上すること)には限度額を設けており、全額を損金として認めないのが前提となっておる。計上した全額を損金として認めると、貸倒れの危険がない債権額について貸倒引当金を計上して課税所得を減らし(これを利益操作と言う)、税額を減らそうとする会社が現れるためじゃ。真面目に税法を守る会社とそうでない会社の不公平を防ぐ狙いもあるのじゃが、いずれにしても税金をたくさん取ろうとすることにかわりはない。


このように税法では、貸倒引当金の繰入額に限度額を設けているのじゃが、企業会計の原則に従えば、貸倒れの危険のある債権については、貸倒れ相当額をその年度の費用として全額計上しなければならない。企業会計制度を遵守して、貸倒引当金全額を計上した場合、設例の300部分はどうなるのか。この税法上の限度額を超えた部分300は、法人税の申告上、「課税所得に加算」されて、結果的に課税されることになる。したがって、会計上の費用は減らず、税金だけが増えることになり、結果として利益が減ることにつながってしまうのじゃ。これを「有税処理」と呼ぶが、企業会計の観点からは、本来は払う必要のない税金なのじゃ。


ただし、例えば翌年度に入って、実際に有税処理の対象となった取引先が経営破綻して、債権が回収できなかった場合は、その年度の損金として認めてもらえるため、先か後かの問題に見えてしまうが、このタイミングのズレが、税法と企業会計との問題の根源なのじゃ。


※19999年まで、税法に引きずられていたと言うのは、まさにこのような部分なのじゃ。税金ばかりとられて利益が減れば、その年度の配当も減るため株主等からの経営者の評価は下がる。こんなのはばからしいから、無駄な税金を取られないよう、税法の範囲内で費用を計上しようということにつながるわけじゃ。


しかし、ここには重大な問題が潜んでおる。貸倒引当金など税法に引きずられて正確に示されていない費用が存在すると、「含み損」という隠れた負債が利害関係者に知らされないことになってしまう。毎年の財務諸表で適正水準の利益が計上され、配当も実施されていれば、株主等は経営の実態に気付くことはないじゃろ。かつて、大手証券会社や銀行が経営破綻したのは、突然破綻したように見えるが、正にこの含み損が限界を超えたからなのじゃ。


3.会計制度を正常にもどすための手段

このように、大手企業の経営破綻が一つのきっかけとなって、「会計ビックバン」と呼ばれる様々な会計制度改革が進められたのじゃが、税効果会計は、この税法と企業会計とのタイミングの違いによる差異を対象とした仕組みなのじゃ。従来の問題点は、設例でも示したように、「会計上支払うべき税金」ではなく、「税務上、実際に支払った税金」が財務諸表(損益計算書)に載ってしまっていたことじゃ。


また、もう一つの問題は、将来の税金の支払額に与える影響が「貸借対照表」に記載されていなかったことじゃ。税法にひきずられて支払った税金は、そのタイミングの違いが原因で、「早く納めてしまった税金」じゃ。これは、逆に見ると、将来の税金の支払額が減ることになるはずじゃ。将来の支払額が減れば、将来の会社の利益は増えることになるのじゃが、従来の貸借対照表では、「税金の支払額が減るという情報」が記載されていなかったということじゃ。


このような問題を解決し、正常な会計制度に戻すために導入されたのが税効果会計なのじゃ。税効果会計では、損益計算書に「会計上支払うべき税金額」が、貸借対照表には「将来増減する税金の額」が記載されることになった。


4.まとめ

次回は、貸借対照表と損益計算書のどこが正常化されたのかを解説しよう。ただ、この税効果会計というのは、収益・益金や費用・損金、利益と課税所得など、言葉に振り回されて混乱し、理解が進まないことも考えられる。ちょっと本気を出して学習する必要があるが、顧問の税理士にレクチャーを受けるのも有益じゃ。文章を読むのと、耳から説明を聞くのとでは大きな違いがあるからじゃ。

最初から系統立てて税理士の説明を受けるのも良策じゃ。顧問税理士がいないようなら、税理士紹介会社に相談するとよい。経営者にとって税効果会計を理解していることは大きな強みになるぞ。





ラボン博士のお役立ちコラム