収益認識会計基準シリーズ2回 5つのステップ その1

目次

OA機器販売・保守サービスを行うA社は、B社との間でパソコン機器(サーバー含む)の売買と保守サービスの提供を一体として契約し、当期に商品を引き渡すとともに、当期から4年間の保守サービスを行うこととした。契約書記載の商品代金並びに保守サービスの対価は合計15,000千円である。

(1)ステップ1
顧客との契約を識別する⇒商品と保守サービスの提供が一体の契約であることを確認する。
本来、物品である商品と役務の提供となる保守サービスについて、セットで契約しているため、これは一体の契約えあるということを確認したという意味じゃ。

(2)ステップ2
商品の販売と保守サービスの提供を別個の履行義務として識別し、それぞれを収益認識の単位と
した。
物品の引渡し義務と、役務(保守サービス)の提供義務はそれぞれ履行する時期が異なる(保守サービスは4年間にわたって提供する)ため、別個の履行義務が存在することを確認した上で、別個の収益認識の単位としたという意味じゃ。

(3)ステップ3
商品の販売及び保守サービスの提供と交換に、企業が権利を得ると見込んでいる対価の額を15,000千円と判断した。
※この契約に基づいて企業が得られる対価の額は、契約書に記載された15,000千円であることを確認したという意味じゃ。

(4)ステップ4
取引価格15,000千円を収益認識の単位である各履行義務に配分し、商品の取引価格は12,000千
円、保守サービスの取引価格は3,000千円とした。
商品12,000千円は売上高に計上し、保守サービス料3,000千円は役務収益として計上するという意味。

(5)ステップ5
履行義務の性質に基づき、商品の販売は一時点において履行義務を充足すると判断し、商品の引渡
時に収益を認識する。また、保守サービスの提供は、一定の期間にわたり履行義務を充足すると判
断し、一定の期間(4年間)にわたって収益を認識することとした。
商品の売り上げは当該年度の収益として計上するが、保守サービスは4年間にわたって提供するため、3,000千円は、各年度に収益を配分しなければなないという意味じゃ。具体的には、当該年度に4分の1相当の75万円を収益に計上し、残りの225万円を前受収益(負債勘定)として計上するという意味じゃ。前受収益に計上した225万円は、翌年度以降、毎年サービスを提供した都度、75万円を収益に計上して、その分の負債を減らすという作業をすることになるのじゃ。

2、5つのステップの適用要領

(表1-2)で示した事例につき、適用上のポイントを解説していこう

2-1、顧客との契約の識別とは

契約というのは、法的に強制力を持つ権利や義務を生じさせる「複数の当事者間」における取り決めと考えればいいじゃろう。契約は、「書面」、「口頭」、その他「取引上の慣行」等、その形式にかかわらず当事者が承認し、履行義務(契約を実行すること)を確約している必要がある。

その上で、次の「識別要件」を全て満たす場合に、顧客との契約を「会計処理」しなければならない。
(表2)契約の識別要件

  1. 当事者が、書面、口頭、取引慣行等によって契約を承認し、それぞれの義務の履行を約束していること。
  2. 移転される財またはサービスに関する各当事者の権利を識別できること。
  3. 移転される財またはサービスの支払条件を識別できること。
  4. 契約の結果として、その企業の将来キャッシュ・フローのリスク、時期または金額が変動すると見込まれること。
  5. 顧客に移転する財またはサービスと交換に企業が得る対価を回収する可能性が高いこと。この(1)~(5)の要件が満たされていない時点で対価を得た場合は、以下のいずれかに該当するに至った時点でその受け取った対価を収益として認識することになる。

(イ)財またはサービスを顧客に移転する残りの義務がなく、約束した対価のほとんどすべてを受け取っており、顧客への返金は不要であること。
(ロ)契約が解約されており、顧客から受け取った対価の返金は不要であること。

※このいずれの場合にも該当しないときは、いずれかに該当するまで、または、契約の5つの識別要件が満たされるまで、顧客から受け取った対価は、将来に財またはサービスを移転する義務または対価を返金する義務として、つまり負債として認識することになる(具体的には「前受収益等」。(表1-2の(5)の※を参照)。

2-2、契約の結合

次のいずれかを満たすとき、同一の顧客と同時に締結した複数の契約を結合して、単一の契約とみなして会計処理する(収益認識会計基準27項)ことになる。法律上は別個の契約であっても、実態として一体の契約とみられる場合には、会計上は契約を「結合」して会計単位としなければならないのじゃ。これは、従来の実務ではなかった取扱いじゃ。

(表3)契約結合の要件

  1. 当該複数の契約が、同一の商業目的を有するものとして交渉されたものであること。
  2. 個々の取引の性質は異なるが、顧客が目的を達するために必要であり、パッケージとして交渉した結果の取引であると言う意味じゃ。

  3. 一つに契約において支払われる対価の額が、他の契約の価格または履行によって影響を受けること。
  4. 別個に契約すると、単体の財またはサービスとして個々の価格で契約しなければならないが、これら複数の取引を一括で同じ会社と契約することによって割安となるような取引を指している。なお、財またはサービスを単独で提供する場合の価格を「独立販売価格」という。

  5. 複数の契約によって約束した財またはサービスが、「履行義務の識別(後述)」について定めている基準に従うと、単一の遅行義務となること。
  6. それぞれが、別個に履行されるものであることを指している。商品は「引渡し」、保守サービスは「保守作業の提供」という性質の異なる取引であるということ。

2-3、契約結合の例

上記でも一部触れているが、企業が販売促進政策の一環として、商品を購入する顧客との間で、保守サービスを同時に、若しくはほとんど同じ時期に締結することを条件に、単独で保守サービスを利用するよりもその料金を低く設定している場合がある。この場合は、契約の結合の前提となる「同一の顧客」と「同時に締結した複数の契約」という要件を満たすことになる。

このため、2つの契約を結合するか否かは、(表3)の要件に該当するか否かの判断になるのじゃ。この企業は、同一の顧客との間で、機器の販売と保守サービスの提供という関連性のある「製品とサービス」を一体として交渉していること、また、保守サービスの価格は、機器の販売に影響を受けることになり、この両者には「価格の依存性」が認められる。このため、(表3)の(1)(2)の要件を満たしていると考えられ、この二つの取引(契約)を結合して「単一の契約」とすることになるのじゃ。

3、まとめ

テーマが会計の仕組みの話しであるため、妙な言葉をひねくり回すことになるが、(表2)(表3)の※は、会計基準に書かれていることを、できるだけ分かりやすい表現で説明している部分じゃ。理解の助けとなれば幸いじゃが、読むときに税理士の介助があると分かりやすい。

顧問税理士のレクチャーを受けながら読み進むことができれば、かなり理解が進むはずじゃ。顧問税理士がいないようなら、すぐに税理士紹介会社に相談すると良い。自社の状況等を伝えながら、自社にとって、社長にとって最適な税理士を紹介してくれるはずじゃ。

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