収益認識会計基準シリーズ10回 個別の論点その1

目次

前回の続きで、ポイント制度に関する収益認識会計基準における取扱いについて解説する。今回は、ポイント制度の法人税法上の取扱いと、「他社のポイント制度」に絡む取扱いについて解説し、その後、「商品券」の取扱いについて見ていこうと思う。

1、ポイント制度の法人税法上の扱い

収益認識会計基準においては、ポイントは商品の販売と別個の履行義務と見ることになり、ポイントに配分される金額分だけ、商品の販売に係る売上が従来の処理に比べて減少することになる(ポイント部分は繰延収益として負債に計上する)。

これを法人税法で認めてもらえるのかということじゃが、これについては、法人税法の基本的な解釈を整理した「法人税基本通達」というのがあり、この通達において、ポイント制度については次の4つの要件をすべて満たすものは、継続適用を条件として認容(税法上認めると言う意味)されるとしている。

(表1)ポイント制度の会計処理が税法上認容されるための要件

  1. その付与したポイントが、資産の販売等の契約を締結しなければ相手方が受け取れない重要な権利を与えるものであること。
  2. その付与したポイントが発行年度ごとに区分して管理されていること。
  3. 法人が付与したポイントに関する権利につき、その有効期限が経過したこと、規約その他の契約で定める違反事項に相手方が抵触したこと、その他の当該法人の責に帰さないやむを得ない事情があること以外の理由により一方的に失わせることができないことが規約その他の契約において明らかにされていること。
  4. 次のいずれかの要件を満たすこと。

イ.その付与したポイントの呈示があった場合に値引き等をする金額が明らかにされており、かつ、将来の資産の販売等に際して、たとえ1ポイントまたは1枚のクーポンの呈示があっても値引き等をすることとされていること(注1)。

ロ.その付与したポイントが、当該法人以外の者が運営するポイントまたは自ら運営する他のポイントで、イに該当するものと所定の交換比率により交換できることとされていること。

(注1)ここで言っているのは、一定単位数に達しないと値引き等の対象とならないものや、割引券およびスタンプカードのようなものはイの要件を満たす自己発行ポイント等には該当しないという意味じゃ。

以下、各要件について解説する。

  1. の要件については、取引の契約をもって「重要な権利を与える」ことで、相手方に対する独立した履行義務として識別するための要件となっている。つまり、会計上、商品やサービスの提供に付随して付与されるものであって、かつ、それが重要な権利を顧客に提供すると判断される場合に、ポイント部分が別個の履行義務として識別されることになるのじゃ。
  2. は、ポイントの管理についての要件じゃが、通常は発行年度ごとに管理されている場合が多いので、問題はないと思われる。
  3. の要件は、回りくどい言い方で、何を言っておるかよくわからないようになる典型例じゃな。ポイントの失効について言っておるのじゃが、有効期限の経過等はポイントの発行者たる企業の責に帰さないやむを得ない事情があることに限定されていることが、規約などによって明らかであれば問題はないということじゃ。
  4. は、イとロのどちらかの要件を満たせばよいわけじゃが、イで言うところの「1ポイントまたは1枚のクーポンの呈示があっても値引き等をすることとされていること」になっていないケースが多いのではないじゃろうか。こうなっていない場合に、この要件を満たすために制度内容を変えるか否かと言う問題が出てくる。

ここで、そのポイント制度が、イの要件を満たしておらずとも、ロの要件を満たしていれば良いわけじゃから、その点の確認が必要となる。ロの要件は、「イに該当するものと所定の交換比率により交換できることとされている」じゃから、制度上、他社のポイントまたは自社が運営する他のポイントと所定の交換比率によって交換できることとされていれば認容要件を満たすことになる。これにも該当しなければ、制度の仕組みを変える検討も必要となる。

2、他社のポイント付与の場合

ここまでは自社ポイントを付与した場合の取扱いだったが、他社が運営するポイント制度に参加している企業が、他社ポイントを付与する場合の処理についてはどうだろうか。自社の商品を販売し、他社のポイントが付与された場合、そのポイント付与に係る代金を支払わなければならないことになる。

この場合、他社ポイントの付与は、顧客に重要な権利を提供していないと判断されるため、自社ポイントのときのように、収益の繰延(契約負債計上)を認識する会計処理とはならず、他社に対する「未払金」を計上して、その額が収益から減額される処理となるのじゃ。

なお、この他社が、連結グループ内の企業である場合は、連結上は自社ポイントの発行と同様となるため、連結修正仕訳を行って、自社ポイントの会計処理に修正する必要が出てくることに注意が必要じゃ。

3、特殊なポイント付与

新規に会員制度に加入したときなど、取引の実態が伴わないのにポイントが付与される場合がある。このようなポイントは、商品の販売サービスの提供に付随して付与することにはあたらないため、契約負債の計上という処理は認められない。

会計上は、引当金の計上要件を満たす場合もあるが、会計上引当金を計上することになれば、税務上は認容されないことに注意が必要じゃ。

4、商品券の取扱い

商品券は、券面に記載された金額の商品の提供を受けることができる権利を証する「有価証券」の扱いじゃ。百貨店やスーパーなどが発行しているが、贈答用に利用されることが多い。

この商品券の使用形態を整理すると、「発行した企業等が運営する店舗等でのみ使用できる自社発行券」、「使用できる店舗等が発行者に限定されず、全国百貨店協会などに加盟する企業間で共通して利用できる共通券」に大別される。

4-1、会計上の取扱い

商品券の会計処理は、商品券等を発行した段階では「財貨の移転の完了」という要件を満たさないため、収益計上は認められていない。自社商品券の発行時は、商品等の引渡しがないため、前受け金や預り金などと同様に「商品券」という負債勘定に計上することになる。

将来、財又はサービスを移転する履行義務については、顧客から支払い(商品券の代金)を受けたときに、支払を受けた金額で契約負債を認識するということじゃ。財又はサービスを移転し、履行義務を充足したときに、計上してあった契約負債の消滅を認識(商品券勘定を取り崩し)、収益を認識するという手順じゃ。

ただ、商品券の場合は、顧客が権利行使しない(商品券を使わない)と見込まれる部分の処理が問題になる。収益認識会計基準では、契約負債における非行使部分(使わない部分)について、企業が将来において権利を得る(顧客が使わなければ企業の収益となる)と見込む場合には、非行使部分の金額について、顧客による権利行使のパターンと比例的に収益を認識する。

また、契約負債における非行使部分について、企業が将来に権利を得ると見込まない(商品券を使用する可能性が高い)部分には、その非行使部分の金額について、顧客が残りの権利を行使する可能性が非常に低くなったときに収益を認識することになる。

4-2、法人税法上の取扱い

企業が、その商品券を発行するとともにその対価の支払いを受ける場合、その商品券の引渡しまたは役務の提供に応じてその商品の引渡しのあった日の属する事業年度の益金の額に算入する。また、その商品券の発行の日から10年が経過した日の属する事業年度終了の日において商品の引渡し等を完了していない商品検討がある場合には、その商品券等に係る対価の額をその事業年度の益金の額に算入することになる。

事業年度終了の時において引き換えが行われていない商品券等については、一括益金算入するものとされている。ただし、非行使分で、権利行使のパターンと比例的に収益計上した部分については、すでに収益を計上済みであるため、一括益金算入額から除かねばならない。

なお、その商品券等の発行の日から10年が経過した日前に、次に掲げる事実が生じた場合には、その生じた日の属する事業年度の益金の額に算入しなければならないのじゃ。10年経過日前に発生した場合に益金算入すべき事実とは、以下の場合をいう。

(表2) 10年経過日前に発生した場合に益金算入すべき事実

  1. 法人が発行した商品検討をその発行に係る事業年度ごとに区分して管理しないこと、または管理しなくなったこと。
  2. その商品券等の有効期限が到来すること。
  3. 法人が継続して収益計上を行うこととしている基準に達したこと、商品券等発行総数に占める未使用権の数の割合が一定割合となったこと、その他の合理的に定められた基準のうち、法人が予め定めたものがこれに該当する。

5、まとめ

今回は、ポイント制度における収益認識会計基準に関して解説を進めてきたが、概要はつかめただろうか? ポイント制度は、最近あたりまえの制度となっているが、税法上の適切な対応が必要であることを念頭に置かなければならないぞ!

ここでもまた、一旦採用した会計手法はその後も継続適用することが税務上認容されるための要件となるので、できるだけ税理士からのアドバイスをもらったほうがよい。顧問税理士がいないようなら、早期に顧問契約を締結しておいたほうがよい。税理士紹介会社に相談すれば、リクエストに適った税理士を紹介してくれるはずじゃ。

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