税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第6回《減価償却資産番外編―ソフトウエア》

目次

今回は、本シリーズの第3回で解説した「減価償却資産」の中の「無形減価償却資産」に属する「ソフトウエア」の取扱いについて解説しようと思う。コンピューターを使わない仕事は探しても出てこないほどITが普及し、今ではAIの時代に突入しておる。このような時代、ソフトウエアについても様々な分野で進化を遂げ、関係する金額も多額になるケースが増えてきた。目で見てすぐに判別できるようなものではないため、税務調査などでも注目される分野じゃ。

1、ソフトウエアを取得したときの注意

減価償却資産を取得したときの取得価額の計算方法は、第3回を参照すると分かりやすいが、購入した場合の取得価額の計算を示すと以下の通りじゃ。

購入時取得価額=購入代金+付随費用+事業の用に供するために直接要した費用
(付随費用:引取り運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等)
(直接費用:仲介手数料、機械の据付費用、試運転費用等)

しかし、ソフトウエアの場合は、自己製作と外部からの購入という二つの方法が考えられる。税務調査で着目されるのは、取得価額に含まれる費用について、「取得価額の範囲は適性か」、「期間費用(注1)の判断は適性か」の2点じゃ。以下、自社製作と外部化の購入に区分して見てみよう。

(表1)取得価額の範囲を決めるに当たっての注意点

区分 取得費の算入にあたって注意すべき点
自社製作 自社のシステムエンジニア等の人件費、外注費などを個別原価計算(注2)の方法によって計算して取得価額を計算する。このあたりは、基本的に、企業会計における取扱いと同様である。自社制作の取得価額は、ほとんどが人件費(内部・外部を問わず)で構成されるため、作製プロセスすべてにおいて、厳格な管理と詳細な記録を残すことが肝要じゃ。また、次のように企業会計と税務会計では取扱いが異なる部分もあるため、注意が必要じゃ。

【企業会計】
自社で製造し自社で利用するソフトウエアの費用のうち、そのソフトウエアの利用により将来の「収益の獲得」または「費用の削減」が確実であると認められないか不明である場合、「研究開発費(期間費用)」として取得価額に含めないという扱いじゃ。
【税務上の取扱い】
次の費用は取得価額に含めないこととしている。
イ.自己製作ソフトウエアの製作計画変更等によって、不要となったことが明確な費用。
ロ.自社利用のソフトウエアについては、その利用によって将来の収益獲得又は費用削減にならないことが明らかな研究開発費の額。
ハ.製作に要した間接費及び付随費用等で、その額の合計額が少額であるもの。※ 「少額」の目安は、製作原価の概ね3%以内の金額。

※以上から、「将来の収益の獲得」または「費用の削減」が不明である場合は、企業会計上は「期間費用」として認識するのに対し、税務上は取得価額に含めて「資産計上」するという認識の相違により、取り扱いが異なることになるため、充分な注意が必要となるのじゃ。

外部からの購入 外部から導入したソフトウエアは、稼働までに必要なインストールや調整費用(設定やカスタマイズ等)も取得価額に含まれるため、導入から稼働までの作業工程や人件費の内訳等の根拠資料が不可欠となるため、遺漏のないよう注意が必要じゃ。

(注1)期間費用とは、当期に発生した費用で、当期の収益と対応関係にある費用をいう。
(注2)個別原価計算
一つずつ違う製品を、個々の製造指図書をもとに生産する個別受注生産で使われる計算方法。製造命令として発行された各製品の製造指図書に従って、各費用を直接費と間接費に分け、このうち直接費は製造指図書ごとに原価を集計し、間接費は一定の基準に従って配賦計算を行って、製造指図書ごとの製品原価に加算して製品の原価を計算するという流れ。

2、償却開始日

ソフトウエアの減価償却開始の日は、実際に「事業の用に供した日」となる。取得後のテストやカスタマイズなどが必要な場合は、取得日からではなく、テストやカスタマイズが終了し、実際に事業の用に供した日から償却を始めることになるのじゃ。税務調査を念頭に置くと、作業完了報告書や関係書類等を詳細かつ確実に整備しておくことが求められる。償却開始時期は、当年度の課税所得に影響を与える要素であることから、年度末に導入する場合などは特に注意が必要じゃ。現物が揃ったとしても、事業の用に供していなければ償却費という費用(税務上の損金)は発生しないことになってしまうので、税理士との打ち合わせを怠らないことじゃ

3、バージョンアップ時の注意事項

ソフトウエアのバージョンアップは、シリーズ4回目で解説した「修繕費」と「資本的支出」の判断基準がポイントとなる。価値の増加を伴うものは、資本的支出として取得価額に算入し、通常の維持管理及び原状回復のための費用は修繕費となるのじゃ。消費税率改定に伴うプログラム修正や、不具合を改善するなどの修正に要する費用は、基本的には修繕費として認められるものじゃ。

一方で、新たな機能を追加して明らかに機能を向上させたような場合は、資本的支出として取得価額に加えなければならない。そして、このような場合も、支出の内容が明確にわかる書類等の整備が必要となるので留意することじゃ。

4、除却時の確認

ソフトウエアというのは、パソコン本体のように物理的に廃棄するような外形的変化が分からないという点に難しさがあり、問題が生じるもとになっておる。役目を終えたソフトウエアを破棄して除却損を計上する場合は、アンインストールが客観的に確認できる記録などの証拠書類の整備が欠かせないのじゃ。物理的な証拠は無理としても、そのソフトウエアが事業にとって陳腐化し、役に立たないものになったことが客観的に分かればいいわけじゃから、関係する証拠を積み上げて、合理的な説明ができるようにしておくことが肝要じゃ。

税務上は、事業の用に供しないことが明らかであることを示す、以下の事実がある場合には、その事業年度において損金計上が認められることになっておる。

イ.自社利用のソフトウエアにおいて、それを使用して行うデータ処理の業務が廃止され、そのソフトウエアを使用する理由がなくなったことが明らかな場合。
ロ.ソフトウエアに関し、新商品が登場し、実際にバージョンアップが行われるなど、そのソフトウエアが今後販売される意味がなくなったことを証明する記録が残っている場合(社内稟議書・決裁文書・業者との正常な営業循環過程で行われる取引文書等)。

5、まとめ

今回はソフトウエアの取扱いについて解説してきたが、内容は把握できたじゃろうか。着目点は、「取得価額に算入する費用の適正性」、「バージョンアップの時の修繕費の扱い」、「除却における客観性の確保」の3つじゃ。そして、どのような場合も、「記録や証拠書類を残して客観的に説明できるようにしておくこと」と、「適時、税理士と打ち合わせを行うこと」がポイントじゃ。そして、会計処理に共通するのは、企業会計と税法上の取扱いの違いを常に意識することじゃ。

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