税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第21回《印紙税》

目次

読者各位は、印紙税の税務調査があるのをご存じだろうか? 印紙税の調査は、地域によって異なるが、法人税の調査とセットで行われることが多い。今回は、意外と知られていない印紙税について、税務調査のポイントとともに解説する。

1、印紙税の調査とは

印紙税の調査は、課税文書(収入印紙の貼付が義務付けられた書類)に印紙が貼られているか、また、適正に消印がなされているかを調べるもので、企業会計と税務会計の違いや特殊な計算方法などがないので、単純かつ明快じゃ。調査では、会社が作成した書類の記載内容や金額などから「課税文書か否か」、「いくらの印紙を貼付すべきか」について調べられることになる。

印紙を貼付しなければならない課税文書は、印紙税法に細かく規定されていて、領収書、レシート、土地建物の売買契約書、金銭消費貸借契約書などがよく知られている。注意すべきは、書類の名称ではなく、その書類に記載されている内容によって課税文書か否かが決まると言うことじゃ。

例えば、領収書を「受取書」、売買契約書を「売買に係る合意書」などと表記していても、その内容が「領収書」や「売買契約書」であれば課税文書となるので、小賢しくタイトルを変えて印紙税逃れをしようとしてもすぐにばれてしまう。

2、業種態別の調査方法

印紙を貼付しなければならない文書は、業種による使用頻度の違いがあり、したがって調査も業種によって着眼点が異なるのじゃ。

2-1、小売業・飲食業

現金決済が多い小売業や飲食業においては、レシートや領収書のチェックが中心になるが、レシートなどの資料を確認しようとすると相当の時間を要するため、まず、一人当たりの売上金額や、取引1件当たりの売上金額調べて印紙税の納付額のあたりを付け、会社が実際に納付した金額と対照させて、金額差が大きければ詳細に調査するという手法をとるのじゃ。

ちなみに、小売店や飲食店などへの調査では、調査日前に、実際に買い物や食事をして対応を見定める場合があるので留意しておくと良い。売上代金の授受では5万円未満は非課税なので、スーパーや普通の食堂などで印紙を貼付するような案件はそう多くはないと思うが、アルバイト店員を含め、従業員に対しては印紙の貼付について十分に指導しておくことが大切じゃ。

2-2、不動産業・建設業

不動産業や建設業を営む会社などでは、契約書を作成する場面が多いはずじゃ。これらの業界に対する調査は自ずと契約書が中心になる。不動産会社では、売買に係る契約書関係、仲介取引にかかる契約書及び手数料収入の関係、家賃収納の関係でも領収書及び預かり証などが調査される。

印紙を貼り忘れていた場合は、本来納付すべき印紙税額とその2倍に相当する額との合計額(本来の印紙代の3倍)に相当する「過怠税」が課される(ただし、貼り忘れを自ら申し出たときは、1.1倍に軽減)。また、貼るには貼ったものの「消印」をしていなかった場合は、消印を忘れた印紙と同額の過怠税が課される。

不動産の売買や建設工事の請負契約などでは、取引額が高額になることが多いため、当然、印紙代も高額になるので、貼り忘れや消印漏れがあったときの過怠税は大きい。ちなみに、消印をしていない印紙を剥がして他の課税文書に貼付したのがばれると、やはり3倍の過怠税を課されて節税どころではなくなるので十分注意が必要じゃ。

3、課税文書と非課税文書

印紙税法でいう「文書」には、「課税文書」、「非課税文書」、「不課税文書」があり、印紙税法別表第一(課税物件表)の欄に掲げられているものが課税文書で、20項目記載されている。非課税文書とは、この別表の何れかの号に該当するものの、除外規定で課税対象とならない文書を言う。(例えば、印紙税法別表第一の1号文書に該当する契約書であっても、契約金額が1万円未満の場合は、非課税文書に該当し、収入印紙の貼付は必要ないという要領じゃ。)このほか、国や地方公共団体と法律で指定された非課税団体の作成する文書が非課税文書となっている。

以下、参考までに印紙税法別表第一の一部を抜粋して記載しておく。
(表1)印紙税法別表第一抜粋

番号 課税物件 課税標準及び税率 非課税物件
物件名 定義
1 1 不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書 1 不動産には、法律の規定により不動産とみなされるもののほか、鉄道財団、軌道財団及び自動車交通事業財団を含むものとする。

- 以下、略 -

1 契約金額の記載のある契約書
次に掲げる契約金額の区分に応じ、一通につき、次に掲げる税率とする。
十万円以下のもの 二百円
十万円を超え五十万円以下のもの 四百円
五十万円を超え百万円以下のもの 千円
百万円を超え五百万円以下のもの 二千円
- 以下、略 -
1 契約金額の記載のある契約書(課税物件表の適用に関する通則3イの規定が適用されることによりこの号に掲げる文書となるものを除く。)のうち、当該契約金額が一万円未満のもの
- 以下、略 -

もう一つの不課税文書というのは、課税物件表の何れの号にも該当せず、課税対象とならない文書のことを言う。つまり課税文書でも非課税文書でもない文書のことじゃ。ちなみに、以下に示す契約書は不課税文書に該当するので、収入印紙の貼付は不要じゃ。

(表2)不課税文書

○ 委任契約書(無償であること)、○ 使用貸借契約書(無償であること)、○ 建物賃貸借契約書(同じ不動産でも、土地賃貸借契約書は課税文書に該当するので注意)、○ 動産売買契約書(機械売買契約書等)、○ 動産賃貸借契約書、○ リース契約書、○ 雇用契約書、○ 出向契約書、○ パートタイマー契約書、○ 労働者派遣契約書、○ 秘密保持契約書、○ 技術提携契約書、○ 特許権専用実施権設定契約書、○ 特許権通常実施権設定契約書、○ 実用新案権専用実施権設定契約書、○ 実用新案権通常実施権設定契約書、○ ソフトウイェア利用許諾契約書、○ 業務提携基本契約書、○ 示談契約書

4、税務調査への対応

印紙税は、業種特性に着目して調査されることは前述したとおりじゃが、契約書や領収書の実査とともに、収入印紙の受払い簿も当然チェックされる。収入印紙は現金同等物なので、買い置きがある場合は、本来ならば日々棚卸して在庫と受払いの適正性を確認しなければならないことに注意じゃ。高額取引の契約書に貼付する高額印紙は必要な都度購入すると思うが、領収書に貼る200円印紙はまとめて購入し費用処理しておるはずじゃ。

この費用処理も、うっかり雑費などの他の費用で処理していると、調査のときに枚数が合わず、要らぬ疑いを招くおそれもあるので、「租税公課」で適切に処理しておかなければならない。会計ソフトでは、各勘定科目に枝番を設けて細かい費目の管理が可能なので、収入印紙という科目を設定しておくと管理しやすい。

調査の結果、税務署が判定した印紙税額に満たない場合には、明確な理由や合理的な反証がない限り、過怠税を含めて追徴課税されることになる。このとき、貼付漏れの枚数等については、税務署の判定額内で自主的に申告させ、一定の減額を認めるのが通例じゃ。しかし当然、この申告についても、合理的な根拠を示さないと認められないので、いずれにしても、日常的な管理がモノを言うことになる。

できれば、税理士の定期訪問にあわせて、収入印紙の受払いチェックをしてもらうと良い。複数の経理担当者で相互チェックができれば問題は少ないのだが、多くの会社では、経理事務は特定の社員に集中するのが常じゃから、税理士をチェック機能として活用することを検討することをお奨めする。

5、まとめ

個々の取引で、課税文書に該当するか否かの判断に迷うこともあるはずじゃ。そのようなときは、都合の良い解釈で印紙を貼らない、又は、うやむやにして放置するようなことはせず、税理士に相談して適切な事務処理に務めることが肝要じゃ。「印紙を貼ったか貼らなかったかわからないだろう」というような安易な考えは捨てることじゃ。会社というのは、事業を行う限り、必ず何らかの足跡が残り、不適切な処理には必ずそのシグナルが点灯することになる。そして、そのシグナルを、税務調査のプロが見逃すことはほとんどないということを知っておくことじゃ。

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