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前回に引き続き、経費の取扱いについて解説しよう。今回は、交際費と引当金について見ていこうと思うが、引当金は、個人事業ではほぼ使わない費用科目というか、感覚的に捉えにくい費用かもしれない。前回の減価償却費もそうだが、法人の場合は、個人の感覚からは理解しがたい会計処理があるので、そこは、「ルール」だと思って割り切って読み進めてほしい。
1、交際費の税務上の取扱い
交際費は、個人事業主と法人とでは取扱いが異なるので注意しないといけない。個人事業の場合は、所得税法の規制を受けるが、所得税法には交際費の規定がないため、事業を行う上で必要か否かを個々の取引について検証し、必要があると認められるものについては、金額の制限なく認められるのじゃ。
一方の法人税法においては、交際費は原則として全額が損金不算入となるが、政策的な配慮から、中小規模の事業者に対しては特例措置を講じて一定の交際費の額を損金として認められることになっておる。このため、税務調査の折には、交際費は必ず調べられる分野で、結果として損金として認められない費用が指摘されて追徴されることが多いことでも知られている。
これは、「交際費等の範囲」や、「損金算入・損`金不算入」という税務上の要件を理解していないことが原因とみられる。損金算入と損金不算入については、他の講座でも再三説明しているので、ここでは、交際費等の範囲の解説から始めることにする。
1-1、交際費とはなにか
法人税上の呼び方は、「交際費等」とされておる。国税局の交際費等の定義は、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、その法人が得意先や仕入れ先、その他事業に関わりのある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(接待等という。)のために支出する費用」とされている。この定義の下、「交際費に含まれる費用」と「交際費に含まれない費用」を整理すると次のようになる。
(表1)交際費の取扱い
交際費に含まれる費用 | 交際費に含まれない費用 |
---|---|
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(注1)一人当たり5,000円の飲食費で損金算入が認められるための要件
次の事項を記載した書類を保存していること
- その飲食等のあった年月日
- その飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係
- その飲食等に参加した者の数
- その費用の金額ならびにその飲食店等の名称及び所在地
- その他参考となる事項
1-2、交際費損金算入の特例措置の要件
既に述べたとおり、原則として全額損金不算入である交際費等には特例が設けられているが、その内容は、会社の資本金の額によって下表のように定められておるのじゃ(2014年4月1日以後に開始する事業年度から適用されている内容)。
(表2)交際費の特例措置(資本金額による取扱い)
資本金の額 | 損金算入限度額 |
---|---|
1)期末の資本金の額が1億円以下 | 次のうち有利な処理を選択できる。 ア.接待飲食費(社内接待分除く)の50%を損金算入 イ.年間800万円以下の交際費を全額損金算入 ※なお、これは年間800万円までが税務上の損金に算入できる限度額であり、交際費等の限度額ではない点に注意が必要。800万円を超える部分の交際費等は課税対象となるだけである。 |
2)期末資本金の額が1億円超 | 飲食費(社内接待分除く)の50%を損金算入 |
《その他注意事項》 上記2)の資本金が1億円を超える大法人対象の措置につき、資本金等の額が100億円超の大法人については、2020年度に行われた税制改正において「適用外」とされた。 |
1-3、交際費と混同することが多い費用
税務調査における交際費のチェックの仕方は、交際費で処理した費用は当然として、交際費以外の勘定科目で処理したものの中に交際費に該当するものがないかも調べる。交際費の特例の限度額内に収めるか否かの問題にもつながるので、日常業務における仕訳は重要じゃ。交際費と混同しやすい費用には次のようなものがある。
(表3)交際費の取扱い
費用の支出目的 | 当初の処理 | 税務上適正な処理 |
---|---|---|
社員同士が仕事の打ち合わせを名目に、居酒屋で飲食し、一人当たり3,000円の費用を支出した。 | 会議費で処理し、税務上損金算入していた。 | 交際費(社員の交流目的)として損金不算入 |
役員数人と幹部社員数人が慰労会を開催し、厚生費として処理した。 | 福利厚生費で処理し、税務上損金算入していた。 | 交際費として損金不算入(特定の役員等しか参加していないため厚生費の要件を満たしていないばかりか、損金算入の要件も満たしていない) |
得意先を接待した際に使用したタクシー代を旅費交通費で処理した。 | 旅費交通費として処理し、税務上損金算入していた。 | 交際費(飲食費とともに交際費となるため、要件を満たせば損金算入可) |
1-4、損金算入できる一人当たり5,000円以下の飲食代
(注1)で示したように、一人当たり5,000円以下の飲食費については、交際費等であっても、所定の要件を満たせば損金不算入の対象となる交際費等から除外することができる。これは、資本金が1億円以下の会社にとっては、800万円の損金算入限度額以外に損金算入できるという点において有益で使い勝手の良い制度じゃ。
ただし、その要件が厳しいので取り扱いには注意が必要じゃ。(注1)に示した要件を満たすためには、日常業務の中で、適切に管理できるよう全ての要件を網羅した記録紙を準備し、税務調査に耐えられるよう整備しておかなければならない。また、取引先等社外の人間を含まない飲食等は、損金不算入の交際費等となる点にも十分に注意しなければならない。
2、引当金
将来発生することが見込まれる損失等に備え、予めその額を合理的に見積もって費用化することを言う。会計上は、法人が自ら合理的な方法で見積もることが基本だが、税法上損金として認められる額が限られているため、場合によっては、課税所得が増えることになっても見積額を費用化する必要も出てくるのじゃ。
主な引当金としては、下表のとおり、「貸倒引当金」、「賞与引当金」、「退職給与引当金」、「返品調整引当金」、「製品保証等引当金」をあげることができるが、法人税法で損金算入が認められているのは、「貸倒引当金」と「返品調整引当金」の二つじゃ。
(表4)引当金の種類と概要
引当金 | 内容 | 損金算入の可否 |
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貸倒引当金 | 売掛金や受取手形等の売上債権について、将来発生が見込まれる回収不能額を合理的に見積もって費用(貸倒引当金)として計上する。 | 税法基準該当額は〇 |
賞与引当金 | 従業員に対して支給する賞与で翌期にまわる部分のうち、当年度の費用として認識すべきものを見積もって費用化する。 ※事業年度が4月~3月、賞与支給月が6月と12月とすると、翌年の6月に支給する賞与の対象期間は12月1日~5月31日となるが、12月~3月の4カ月分は当年度の費用として認識しなければならない。 |
同上 |
退職給与引当金 | 将来、従業員に支払う退職金のうち、その支給対象期間で当期に対応する部分を計上する(退職給与規程において、退職金の積立に係る計算方法が定められているので、規程に基づき計算する)。 | 税法では× |
返品調整引当金 | 販売先に返品や買戻しを認めている場合に、買戻しによる損失見込み額を見積もって計上する。 | 税法では× |
製品保証等引当金 | 販売した製品について、将来の一定の期間、無償で修理を行わなければならない場合、その費用の見積もり額のうち当期に対応する部分を費用として計上する。 | 税法では× |
3、まとめ
交際費の特例措置は、毎年行なわれる税制改正において、措置の「創設」、「延長」、「変更」、「廃止(延長しない)」などが決定される。このような情報や詳細な内容の把握にあたっては、その後の対応にも影響するため税理士の力を借りたいものじゃ。
相談できる税理士がいないようなら、法人成りを決めた時点で顧問税理士を探しておくのが賢明じゃ。税理士紹介会社に相談すれば、事業の種類や将来想定している規模などにあわせ、最適な税理士を紹介してもらえるぞ。