法人成りにかかる税務講座 固定資産税等

目次

今回は、この税務講座開始以来記念すべき100回目を迎えることになった。いくつものシリーズを設けて視点を変えながら進めてきたため、通算回数を意識してはいないだろうが、内容としてはかなりのボリュームとなっているはずじゃ。テーマの性質上、会計用語を使用したマニアックな内容が多くなる為、できるだけ実務で取り扱う例をあげて分かりやすい解説を心がけておるのじゃが、理解は進んでいるだろうか? 今後も、できる限り事例をあげながら、実務に沿った内容にしていこうと考えておるので期待していてほしい。

さて、前回は、毎事業年度に課税されるものとして、法人税や消費税を中心に解説したが、今回は、毎事業年度課税されるその他の主な税金として「固定資産税・都市計画税」を、特定の取引によって生じる税金として「印紙税」、「登録免許税」、「不動産取得税」について解説しよう。

1、固定資産税と都市計画税

固定資産税は、不動産を所有している個人や会社にかかる地方税じゃ。毎年1月1日現在で市区町村の固定資産税課税台帳に登録されている不動産の所有者に課税されることになるため、年の途中で売却した資産があったとしても、その資産を1月1日時点で所有していた者が1年分を負担するということになる。

しかし、この場合、売買で所有権が渡るわけじゃから、売主が全て負担するというのは社会常識的に考えて公平とは言えない。このため、不動産取引の実務では、所有権を移転した日を基準に税額を按分して、買主が、買い取った日からその年の12月31日までの分を売主に支払うのが通例となっておる(売買契約書にその旨記載することになる)。

固定資産税の対象となる不動産は、土地、家屋、償却資産じゃ。償却資産というのは、土地・家屋以外の事業用資産で、法人税法の規定による減価償却額が損金に算入されるものを言うのじゃ。

固定資産税は、「固定資産税=課税標準額(固定資産税評価額)×税率(自治体によって異なるが一般的には1.4%)」で計算される。課税対象資産のうち土地と家屋は、「適正時価」による課税を目的として、3年に1度評価替えが行なわれるが、土地については、この評価替えによる固定資産税評価額のほか、下記の通り毎年3つの基準値が示されておる。

(表1)土地の評価制度

種  類 公表時期 公表主体 内  容 目  的
公示地価 毎年3月中旬 国土交通省 1月1日を基準日とし、都市計画区域のみを対象とする。不動産鑑定士の評価をもとに審査調整して公表。 取引価格の目安を示すため
基準地価 毎年9月下旬 都道府県 用途別に標準地を選定して不動産鑑定士評価を参考に公表 地公体の買収価格基準値
路 線 価 毎年7月1日 国税庁 路線ごとに売買実例、公示地価、実務精通者の意見価額を基に決定。 相続税
贈与税
地価税
固定資産税評価額 3年に一度の3月1日 市町村 主要街路は標準宅地の不動産鑑定価額の7割を目途。その他は主要街路の路線価から比準(類似事例と比較して価格をきめること)。 固定資産税
不動産取得税

一方、都市計画税は、市区町村の都市計画事業などの費用に充てることを目的とした税であり、課税対象は、都市計画区域のうち市街化区域内に所在する土地と家屋となっておる。

課税されるのは、固定資産税と同じ、1月1日現在で固定資産課税台帳に登録されている所有者であるため、毎年固定資産税と併せて納入通知が送付される。なお、償却資産は対象外じゃ。税額は、都市計画税=課税標準額(固定資産税評価額)×税率(0.3%)で計算される。

2、特定の取引にかかる税金

毎年課税されるのではなく、特定の取引が発生したときに課税される税目について確認しておこう。

2-1、印紙税

最もなじみの深い税金といえるが、印紙税は、契約書や領収書などの課税文書を作成した際、自ら収入印紙を購入して貼付・消印(納税)することになる。税額については、市販の手帳の付録等でも「印紙税額一覧抜粋」として掲載されているので取引時に確認がしやすい。

印紙税には、軽減税率が適用されるものがあり、印紙税額一覧では本来の印紙税額の右側にカッコ書きで金額が記載されておる。なお、軽減税率は租税特別措置法で時限的に認められているため、内容が変更になるか廃止されることもあるので注意が必要じゃ。

2020年3月31日まで軽減税率でみると、対象となる契約書は、「不動産譲渡契約書」のうちその契約書に記載された契約金額が10万円を超えるもの及び「建設工事請負契約書」のうち、その契約書に記載された契約金額が100万円を超えるもので、2020年3月31日までの間に作成されるものとなっておる。この内容は以下のとおりじゃ。

(表2)印紙税の本則課税と軽減措置の内容

契約金額 本則 軽減後 軽減額
不動産譲渡契約書 工事請負契約書
10万円超50万円以下 100万円超200万円以下 400円 200円 200円
50万円超100万円以下 200万円超300万円以下 1,000円 500円 500円
100万円超500万円以下 300万円超500万円以下 2,000円 1,000円 1,000円
100万円超500万円以下 10,000円 5,000円 5,000円
1,000万円以上5,000万円以下 20,000円 10,000円 10,000円
5,000万円超1億円以下 60,000円 30,000円 30,000円
50億円超まで規定されているが、以降は省略する。

なお、印紙税は国税であるため、法人税の調査と併せて、又は個別に印紙税の調査が入ることがあるので日常的な管理が重要になる。規模の大きい(課税文書の多い)会社には、3年~5年に一度のペースで調査に入り、貼付漏れなどで、数百万円規模で追徴課税される例が多く見られる。また、本税とあわせて、本税の3倍の過怠税というペナルティーが課されるので要注意じゃ。

2-2、登録免許税

不動産の権利移動や会社関係の商業登記の際に課税される税金じゃ。会社の商業登記に係るものとしては、株式会社等の設立の登記や、支店設置の登記、取締役や代表取締役若しくは監査役等の変更に係る登記等で課税される。その主なものは次の通りじゃ。

(表3)登録免許税が課税される会社の商業登記等の主なもの

項目 内容 課税標準 税率
株式会社等の設立の登記 株式会社 資本金の額 1000分の7(15万円に満たないときは、申請件数1件につき15万円
合名会社又は合資会社 申請件数 1件につき6万円
合同会社 資本金の額 1000分の7(6万円に満たないときは、申請件数1件につき6万円
株式会社又は合同会社の資本金の増加の登記 増加した資本金の額 1000分の7(3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円)
合併、組織変更等の登記 合併または組織変更若しくは種類の変更による株式会社、合同会社の設立又は合併による株式会社、合同会社の資本金の増加の登記 資本金の額、増加した資本金の額 1000分の1.5
(合併により消滅した会社又は組織変更若しくは種類の変更をした会社の当該合併又は組織変更若しくは種類の変更の直前における資本金の額として一定のものを超える資本金の額に対応する部分については1000分の7)
3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円
分割による株式会社、合同会社の設立又は分割による株式会社、合同会社の資本金の増加の登記 資本金の額、増加した資本金の額 1000分の7
(3万円に満たないときは、申請件数1件につき3万円)
支店の設置の登記 支店の数 1か所につき6万円
本店又は支店の移転の登記 本店又は支店の数 1か所につき3万円
取締役又は代表取締役若しくは監査役等に関する事項の変更の登記 申請件数 1件につき3万円(資本金の額が1億円以下の会社については1万円)
支配人、取締役等の職務代行者選任の登記 支配人の選任又は代理権の消滅、取締役又は代表取締役若しくは監査役等の職務代行者の選任の登記 申請件数 1件につき3万円
登記事項の変更、消滅若しくは廃止の登記 申請件数 1件につき3万円
登記の更正又は抹消登記 申請件数 1件につき2万円
支店における登記 一般の場合 申請件数 1件につき9,000円
(登記が「取締役又は代表取締役若しくは監査役等に関する事項の変更」に該当するもののみであり、資本金の額が1億円以下の会社が申請者である場合には6,000円)
登記の更正又は抹消登記 申請件数 1件につき6,000円

(国税庁タックスアンサーを参考に作成)

2-3、不動産取得税

不動産取得税は、有償・無償を問わず、土地や家屋を取得したときに課税される都道府県税じゃ。無償でも課税されるため、贈与も対象となる。この税は、取得してから納税通知が届くまでに通常だと6カ月から遅いケースで1年ほどかかることがある。事業年度をまたいで課税されることが多いため、税金の支払に備えるためには、不動産を取得したときは、県税事務所等に課税時期と概算額を確認しておく必要がある。なお、不動産取得税には宅地について特例が適用されるものがあるので、都道府県のホームページで確認しておくとよい。

(表4)不動産取得税の標準課税と特例(これは一部)

標準税率での税額計算 不動産取得税=固定資産税評価額×4%
宅地の課税標準の特例 不動産取得税=固定資産税評価額×1/2(2021年3月31日までの適用)
このほか、新築住宅及びその敷地の税額軽減、認定長期優良住宅の税額軽減、中古住宅及びその敷地の税額の軽減があるので、詳細は都道府県のHP等で確認が必要じゃ。

3、個人事業と法人の場合の関係する税金

個人事業と法人化後の税金関係を整理すると、次のようになる。法人化すると関係税目の増加とともに事務負担も確実に増えることになるため、税金面だけで捉えると、法人化は費用対効果も踏まえて判断しなければならない。

(表5)個人事業と法人の税目比較

個人事業の場合 法人化した場合
所得税(当人)
住民税(当人)
消費税(当人:課税事業者)
個人事業税(当人)
法人税(会社)
法人住民税(会社所得割・均等割り)
地方法人特別税(会社)
消費税(会社)
固定資産税(会社)
※当人の所得税は別途

4、まとめ

法人化によって、税金の申告・納税等の手続きが煩雑になることは間違いない。経営者としては、税体系全体を把握した上で、事務量と求められる事務処理の水準を勘案して人材を確保しなければならないが、税金のような専門性の高い分野は、プロパーの人材を養成するよりも、顧問税理士に任せる方がコストパフォーマンスは高いと考えられる。

法人化後は定期的な税務調査も想定しなければならないため、顧問税理士は必ず必要になる。顧問税理士を選ぶなら税理士紹介会社に相談するのがベストじゃ。業種や事業の規模に応じて最適な税理士を紹介してくれるはずじゃ。

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