目次
今回は、収益認識会計基準の最終回として、「ライセンス契約」について解説しよう。ライセンス契約は、従来の実務においては、一般的な定めがなく、個々のライセンス契約の内容を勘案した会計処理が行われてきた。従来の実務と異なる処理となる場合について把握し、その処理方法を解説する。
1、ライセンス契約の会計処理
ライセンスとは、収益認識会計適用指針において、「企業の知的財産に対する顧客の権利を定めるもの」とされておる。同指針では、次のような具体的なライセンスが例示されている。
(表1)ライセンスの例示
- ソフトウエア及び技術
- 動画・音楽及び他の形態のメディア・エンタテインメント
- フランチャイズ
- 特許権、商標権及び著作権。
1-1、ライセンスの供与と会計処理
実務の面では、これまで一般的な定めがなく、個々のライセンス契約の内容を勘案して会計処理が行われてきた。収益認識会計基準では、ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財またはサービスを移転する約束と別個のものでない場合は、ライセンスを供与する約束と当該他の財またはサービスを移転する約束を一括して単一の履行義務として処理することになる。
ライセンスを供与する約束が、顧客との契約における他の財またはサービスを移転する約束と別個のものであり、その約束が独立した履行義務である場合には、ライセンスを顧客に供与する際の企業の約束の性質が、顧客に次のいずれかを提供するものかを判定することになる。
(表2)別個の履行義務と判断したときのライセンスの性質の類型
- ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利(アクセス権)
- ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利(使用権)
ライセンスを供与する際の企業の約束の性質が(1)に該当する場合は、一定の期間にわたり充足される履行義務に該当するものとされ、一定の期間にわたり収益を認識することになる。
一方の2.に該当する場合は、一時点で充足される履行義務として処理し、顧客がライセンスを使用してライセンスからの便益を享受できるようになった時点で収益を認識することになる。なお、企業の約束が「アクセス権」であるか「使用権」であるかの判定要件は次のとおりじゃ。
(表3-1)企業の約束の判定要件
約束の性質 | 判定要件 |
---|---|
アクセス権 | 次の全てを満たす場合、顧客が権利を有している知的財産の形態、機能性又は価値が継続的に変化しており、「ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利」に該当する。 |
(1)ライセンスにより顧客が権利を有している「知的財産に著しく影響を与える活動(注1)を企業が行うことが、契約により定められているまたは「顧客により合理的に期待されている(注2)。 | |
(2)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により、顧客が直接的に影響を受ける。 | |
(3)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として企業の活動が生じたとしても、財又はサービスは顧客に移転しない。 | |
使用権 | (1)~(3)のいずれにも該当しない場合。 |
(注1)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動とは、次のいずれかに該当する場合をいう。
(表3-2)知的財産に著しく影響を与える活動
イ.顧客が知的財産からの便益を享受する能力が、当該企業の活動により得られる場合又は当該企業の活動に依存している場合(例:ブランドからの便益は、知的財産の価値を補強・維持する企業の継続的活動に依存していることが多いと言える)。
(注2)契約以外で顧客が合理的な期待を持つ可能性がある要因としては、企業の取引慣行や対外的に公表した方針等がある。これには、企業と顧客との間で共有される経済的利益(売上高に基づくロイヤルティ等)が含まれるとされておる。
なお、(表3-1)の企業の約束の性質を判定するにあたっては、収益認識会計適用指針により次の要因を考慮しないこととなっている。
(表3-3) 企業の約束の性質を判定で考慮しない要因と理由
考慮しない要因(適用指針66項) | 理由 | |
---|---|---|
1) | 時期、地域または用途の制限 | 時期、地域または用途の制限は、約束したライセンスの属性を明確にするものであり、履行義務を一定の期間にわたり充足するのか一時点で充足するのかを明確にするものではないため。 |
2) | 企業が知的財産に対する有効な特許を有しており、その特許の不正使用を防止するために企業が提供する保証 | 特許の不正使用を防止するという約束は履行義務ではなく、そのための活動は企業の知的財産を保護し、供与されるライセンスが契約で合意された仕様に従っているという保証を顧客に提供するものであるため。 |
1-2、売上高または使用量に基づくロイヤルティの会計処理
知的財産のライセンス供与に対して受け取る対価(ロイヤルティ)が売上高または使用量に基づくものである場合は、次のような会計処理を行う。
(表4-1)売上高等に基づくロイヤルティの処理
売上高または使用量に基づくロイヤルティの収益認識時期 | ||
---|---|---|
知的財産のライセンス供与に対して受け取る売上高または使用量に基づくロイヤルティが知的財産のライセンスのみに関連している場合、あるいは当該ロイヤルティにおいて知的財産のライセンスが支配的な項目である場合 | 右記のいずれか遅いほう | 知的財産のライセンスに関連して顧客が売上高を計上するとき又は顧客が知的財産のライセンスを使用するとき。 |
売上高または使用量に基づくロイヤルティの一部または全部が配分されている履行義務が充足(または部分的に充足)されるとき。 | ||
上記以外 | 収益認識会計基準における変動対価(50項~55項)の定めに基づいて収益を認識する。 |
2、フランチャイズ権
フランチャイズ権については、(表2)の(1)ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利(アクセス権)に該当する場合、「一定の期間にわたり充足される」に該当するため、一定の期間にわたって収益を認識する。
また、同表の(2)ライセンスが供与される時点で存在する企業の知的財産を使用する権利(使用権)に該当する場合は、一時点で収益を認識することになる。
なお、「ライセンス期間にわたり存在する企業の知的財産にアクセスする権利(アクセス権)の要件を満たすか否かについては、(表3-1)のアクセス権欄に示した3つの要件に照らし、フランチャイズ運営者の活動を分析して判断することになる。各要件の例を示すと次のとおりじゃ。
(表4-2)企業の約束の判定要件
判定要件 | 考え方 |
---|---|
(1)ライセンスにより顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える活動を企業が行うことが、契約により定められているまたは | フランチャイズ運営者の取引慣行や公表した方針、フランチャイズ運営者と加盟者の経済的利益の共有の存在があげられる(売上高に応じたロイヤルティなど)。 |
(2)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動により、顧客が直接的に影響を受ける。 | フランチャイズ運営者の実施する商品開発や宣伝等の活動が、フランチャイズの運営の方法や店舗の集客に変化を与えることで、フランチャイズ運営者のその活動の影響に、フランチャイズ加盟者が直接的にさらされるか否かを検討する。 |
(3)顧客が権利を有している知的財産に著しく影響を与える企業の活動の結果として、企業の活動が生じたとしても、財又はサービスは顧客に移転しない。 | フランチャイズ加盟者に対して財またはサービスを移転する活動が含まれていないかどうかを検討することになる。 |
3、法人税法上の取扱い
知的財産のライセンス供与に係る収益の額については、次に掲げる知的財産の性質に応じ、それぞれ次に定める取引に該当するものとして、(1)については、履行義務の充足に応じて一定期間にわたり収益の額を認識し、(2)については、履行義務が充足される一時点で収益の額を認識することになる。
(表5-1)法人税法上の取扱い
(1)ライセンス期間にわたり存在する法人の知的財産にアクセスする権利 | 履行義務が一定の期間にわたり充足されるもの。 |
(2)ライセンスが供与される時点で存在する法人の知的財産を使用する権利 | 履行義務が一時点で充足されるもの。 |
知的財産のライセンスの供与に対して受け取る売上高または使用量に基づく使用料が知的財産のライセンスのみに関連している場合、または当該使用料において知的財産のライセンスが主な項目である場合は、「履行義務が一定の期間に充足されるものに係る収益の帰属の時期にかかわらず、次に掲げる日のいずれか遅い日の属する事業年度において、当該使用料についての収益の額を益金の額に算入する。
(表5-2)収益認識のタイミング
- 知的財産のライセンスに関連して相手方が売上高を計上する日または相手方が知的財産のライセンスを使用する日。
- 当該使用料に係る役務の全部または一部が完了する日。
4、まとめ
フランチャイズ契約やライセンス契約に基づき事業を行う場合は多いのではないかな。文面だけ読み進むとかなり厄介な処理が必要に見えるが、判断基準とその要件を適切に抑えることが重要じゃ。そのためには、やはり顧問税理士の力が必要になってくる。
顧問税理士がいないようなら、税理士紹介会社に相談して、早期に良い税理士を見つめることをお奨めする。定期的な経理処理のチェックと経営相談に乗ってくれる優秀な税理士を紹介してくれるはずじゃ。