収益認識会計基準の画像

今回は、前回の「履行義務の識別」の続きから解説する。まず、「履行義務の識別」において問題となる、「本人」と「代理人」の区分について説明するが、履行義務の識別と本人・代理人区分といわれてもピンとこないのではないだろうか。最初に、「本人」と「代理人」が誰で、「履行の識別」にどのように絡んでくるのかからはじめよう。

1、収益認識会計基準による収益額の捉え方

今回の会計基準の対象となっている収益についていえば、企業会計原則では、費用及び収益は原則として総額で表示すると定められているものの、「認識」のタイミング等具体的な判断基準までは示されていなかった。

実務対応における取扱いとしては、「ソフトウエア取引の収益の会計処理に関する実務上の取扱い」が示されているが、この中で、一連の営業過程における仕入及び販売に関して通常負担すべき様々なリスク(瑕疵担保責任、在庫リスク、信用リスクなど)を負っていない場合には、収益の総額表示は適切でないという考え方をとっていたものの、包括的な会計基準はなかったのじゃ。

収益認識会計基準においては、企業が「本人」に該当する場合と「代理人」に該当する場合で履行義務が異なるため、企業が本人か代理人かのいずれに該当するかを判断し、収益を「総額」で表示するか「純額」で表示するかを定めているのじゃ。

顧客との約束が、その財またはサービスを企業が自ら提供する履行義務であると判断され、企業が本人に該当する場合には、財またはサービスの提供と交換に企業が権利を得ると見込む対価の総額を収益として認識することになる。

一方、顧客との約束が、その財またはサービスを他の当事者から提供されるように企業が手配する履行義務と判断され、企業が代理人に該当する場合には、代理人として手配することと交換に権利を得ることになる報酬または手数料の金額を収益として認識することになる。

2、履行義務の性質の判断

このように、契約の当事者である企業が本人に該当するか代理人に該当するかの判断が必要となるが、この判断にあたっては、締結した契約の性質が、「顧客に財またはサービスを、企業自ら提供する履行義務」なのか、「他の当事者によって提供されるようにその企業が手配する履行義務」なのかを、次の手続きを通して判断することになる。

(表1)履行義務の性質の判断基準

区分 判断基準
ステップ1 顧客に提供する財またはサービスを識別する。
ステップ2 顧客に提供される前に財またはサービスを企業が支配しているか否か

※ここでいうステップとは、5つのステップとは別のものなので注意。

ここでいう「企業の支配」とは、財またはサービスの使用を指図し、財またはサービスから残りの便益のほとんどすべてを享受する能力、または、他の企業が財またはサービスの使用を指図し、それらの便益を享受することを妨げる能力をいう(収益認識基準の定義)。

具体的には、以下の3つの指標を考慮し、支配の有無の判断をすることになる。

(表2)支配の有無を判断する指標

区分 内容
指標1 企業が財またはサービスを提供するという約束の履行に対して主たる責任を負っているか。
※契約の対象となった製品が、仕様を満たしていないため顧客が検収しない場合、企業が製品を交換して改めて提供しなければならない場合は、その企業が約束を履行すべき主たる責任を負っていると判断される。
指標2 企業が財またはサービスの「在庫リスク」を負っているか。
※在庫リスクとは、製品・商品等が「紛失」、「陳腐化」、陳腐化・劣化等に伴う「価格の低下」などをいうが、顧客が返品できる権利を有している場合も含まれる。
指標3 企業が財またはサービスの価格の設定について裁量権を有しているか。
※裁量権とは、財またはサービスの価格を決定することができる権限をいう。

3、企業の支配の例示

(表3)

〔設例〕
旅行企画会社Aは、ある旅行の企画として観劇チケットを主催者と交渉して一般価格よりも安価に購入する契約を締結した。A社は、顧客にこの観劇チケットを販売することができなくても、主催者に代金を支払わなければならない。顧客に対する観劇の販売価格(旅行代金の一部としての価格)はAが決定し、顧客からの代金もAが回収する。このときの、観劇チケットの価格は、Aの購入代金1,000、顧客への販売価格は1,300である。なお、観劇の実施に関する責任は主催者が負っている。これを、指標1~3に当てはめて検討すると以下のとおりとなる。
(指標1)主たる責任の有無
公演を実施して来場者に観劇という商品を提供するのは主催者の履行義務である。一方で、A旅行企画会社は顧客に対して観劇座席を確保(チケットは旅行代金の一部として販売)することを約してその履行義務を負っている。

この前提で言えば、何らかの理由で顧客の座席を確保できなかったときは、A旅行企画会社が座席を確保して顧客に提供する責任を負っているため、A旅行企画会社は座席の確保・提供について主たる責任を負っていることになる。

(指標2)在庫リスクの有無
A旅行企画会社は、顧客の座席を確保するための観劇チケットを主催者から購入しており、座席数だけの顧客を確保できなかった(チケットを販売できなかった)としても主催者に対する代金支払義務がある。このため、A旅行企画会社は、購入した観劇チケットについて在庫リスクを負っていることになる。

(指標3)価格設定の裁量権の有無
A旅行企画会社は、観劇チケットの販売価格(旅行代金の一部としての価格)を自ら決定することができるため、価格決定権を有している。

〔結論〕
3つの指標に照らし、A旅行企画会社は、この取引において「本人」に該当すると判断され、顧客に対する販売価格である1,300を収益として計上することになる。

4、代替的な取り扱い

「履行義務」についても、「契約の結合」及び「契約の変更」の扱いと同様に、収益認識会計基準適用前まで行われてきた実務上の取扱いに配慮し、一定の範囲内で代替的な取り扱いが認められている。この場合、次の二つの方法で検討することになる。

(1)顧客との契約の観点で「重要性が乏しい」場合の取扱い

約束した財またはサービスが、顧客との契約の観点で重要性が乏しい場合には、その契約が履行義務であるかどうかについて評価しないことができる。重要性の判断にあたっては、「約束した財またはサービスの定量的(数字で判断できるもの)または定性的な性質(数字以外の概念的な要素)」及び「契約全体における、その約束した財またはサービスの相対的な重要性」の2点(定量または定性、及び、相対的重要性)について検討することになる。

(2)出荷及び配送活動に関する会計処理の選択

顧客が商品または製品に対する支配を獲得したあとに行う出荷及び配送については、商品または製品を移転する約束を履行するための一体の活動として処理し、それぞれを別個の履行義務として識別しないことができる

5、従前の日本基準等と収益認識会計基準の比較

ステップ2の「契約履行義務の識別」における従前の日本基準等と収益認識会計基準の違いは以下のとおりじゃ。
(表4) 履行義務の識別比較

従前の日本の会計基準又は実務上の取扱い 収益認識会計基準
請負工事契約及びソフトウエア取引については、工事完成基準や工事進行基準、ソフトウエア取引の複合取引について一定の定めが存在したが、収益認識に係る明確な定めはなかった。 顧客との契約において、提供する財またはサービスを「履行義務と呼ばれる単位に分割して識別」する。

6、まとめ

ここまでくると、従来の実務上の見方に比べてかなり細かい作業を要する会計だということが分かると思う。「収益に計上するために、一々こんなことを検討しなければならないのか」という小言が聞こえてきそうじゃが、適用されると決まったものは仕方がないのじゃ。実際の経営には大して影響がなさそうにも見えるが、なにせ、税金も絡んでくるので無視するわけにはいかんのじゃ。

税金との関係は、今後の解説となるが、雲をつかむような会計の話しより、税金にどのような影響があるのか知りたいなら、顧問税理士に聞いてみたらいい。この会計は、税理士センセイもかなり勉強しなければならない分野じゃから、きっと分かりやすく教えてくれるぞ。顧問契約がないなら、税理士紹介会社を頼ると良い。きっと自社に最適な税理士を紹介してくれるはずじゃ。

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