会社の会計シリーズ(理解編)時価会計と減損会計の1

目次

今回から、時価会計と減損会計の解説に入っていく。この二つも、いわゆる「会計ビックバン」の一環として導入された会計なのじゃ。まずは、時価会計の話しから始めようかのぉ。

時価会計は、資産や負債のうち、その種類や目的に照らして「時価評価」すべきものを「時価で評価」する会計なのじゃが、具体的には、財務諸表を作成する際に、「金融資産と金融負債のうちの一部」を「期末時点での時価に基づいて評価」するということじゃ。この会計の際たるものが「金融商品会計」じゃ。これは後述するが、時価会計そのものは、会社の経営に与える影響が大きい会計制度と言える。

1、時価会計導入前の会計制度の問題点

この制度が導入されるまでは、例えば「時価のある有価証券」を取得原価で評価していたことに大きな問題があったのじゃ。有価証券のうち、時価のあるものは、その有価証券を売却すれば、その時の時価で会社にお金が入ってくる。これを、取得原価のまま評価していたため、会社に将来どれだけのお金の増減があるのかを読み取ることができなかったのじゃ。これは、会社の債権者や株主が会社の経営状態を正確に把握することができないことを意味しておる。

なぜ、こんな会計が通っていたかというと、会計が旧商法に引きずられていたためなのじゃ。2006年に会社法が施行されて商法自体が大改正されているが、商法というのは、「取得原価主義」とか「実現主義」に縛られている法律じゃ。有価証券を時価で評価すると、実際に売却していないため未実現の利益(評価益)が計上されて、取得原価主義や実現主義に反してしまうからの。

未実現の利益を計上して「配当可能利益」が増えてしまうと、配当と言う名の資金の流出につながり、会社の資金を減らすことになってしまうため、闇雲に時価会計を導入するわけにもいかないのじゃ。このため、後に説明するが、時価会計においては、未実現の利益を計上するのは一部の場合に限られており、「評価益」を収益として計上する場合でも、その収益額を配当の対象から外す仕組みになっておるのじゃ。

2、時価評価の対象

時価評価される資産の具体的な種類についてしておこう。基本的には、金融資産が時価評価、事業用資産が取得原価で評価するという点を押さえておこう。その上で、金融資産については、「金融商品に関する会計基準」や「金融商品背景に関する実務指針」等、いわゆる金融商品会計というカテゴリーで整理されておる。この「金融商品に関する会計基準」によれば、金融商品とは「金融資産、金融負債及びデリバティブ取引に係る契約を総称したもの」ということになる。

この定義に該当すれば、金融機関のみならず一般的な事業会社に存在する勘定科目でも金融資産又は金融負債に該当することになる。一方で、適用対象外となるのは、たとえ金融商品の定義を満たすものであっても、「他の会計基準」が適用されるものについては、金融商品会計は適用されないのじゃ。例えば、リース資産などは「リース取引に関する会計基準」があるし、退職給付債務には「退職給付に係る会計基準」が適用されることになる。

ちょっと視点を変えてみると、資産のうち将来金銭で回収されるものが金融資産であり、販売や減価償却によって将来的に費用化される資産である「棚卸資産」や「有形・無形固定資産」は金融資産には該当しないのじゃ。負債についても、営業循環の中で発生する「買掛金」や、資金調達の際に発生する「社債」や「借入金」など、将来的に金銭で支払われるものが金融負債に該当するのじゃ。

なお、「引当金」は、将来の特定の費用や損失に備えるための勘定科目であり、契約に基づく支払義務ではないため、金融負債の定義からは外れることになる。

(表1)金融資産の範囲

金融資産に該当(将来、金銭が回収される) 金融資産に該当しない(将来の費用)
・売掛金
・受取手形
・貸付金
・有価証券
・ゴルフ会員権
・棚卸資産
・有形固定資産(建物、機械装置、器具備品等)
・無形固定資産(ソフトウエアなど)

3、金融資産と金融負債の評価基準

企業会計原則では、「貸借対照表に記載する資産の価額は、原則として、その資産の取得原価を基礎として計上しなければならない」と定めているのじゃが、金融商品会計では、金融商品の価値を適時に財務諸表に反映するために「時価評価」の考え方が採用されている。この理由は、前述したように、その価値をその時の評価として財務諸表に反映する必要があるからなのじゃ。

そして、全ての金融商品について時価評価が採用されているのではないことも前述したが、次のような考え方に基づいて評価基準が定められておるのじゃ。

(表2)金融資産と金融負債の評価基準

金融資産 金融負債
基本的考え方 時価評価を基準としつつ、保有目的に応じて実態に即した評価とする(有価証券、デリバティブ取引によって生ずる正味の金銭債権が時価評価の対象となる) 原則として、時価評価の対象としない(ただし、デリバティブ取引によって生じる正味の債務については時価評価の対象となる)
その理由 1)投資者に対して企業の財務活動の実態を適切に開示するため。
2)企業側において、財務活動の状態を適切に把握することにつながるため。
3)国際基準と整合させるため。
1)借入金のように、一般的に市場のないものが多い。
2)社債のように市場があったとしても、時価によって自由に清算するには事業を行う上で制約があると考えられるため。

4.有価証券の範囲と種類

有価証券とは、金融商品取引法で「国債」、「株式」、「社債」、「投資信託」等々個別具体的な例を挙げて定義されておる(同法第2条第1項・第2項)。企業によって、保有目的は異なるものの、どのような会社においても、何がしかの有価証券を保有していることが考えられる。金融商品取引法では、有価証券をその「保有目的」によって異なる評価をすることを定めておる。そして、その保有目的とは、「売買目的有価証券」、「満期保有目的有価証券」、「子会社及び関連会社株式」、「その他有価証券」の4種類に分類されている。

(表3)保有目的別の有価証券の評価

保有目的 概要
売買目的有価証券 ・時価の変動によって利益を得ることを目的としているため、期末で時価評価し、評価差額は当期の損益として「損益計算書」に計上する。
〔売買有価証券として分類するための条件は次のとおり〕
有価証券の売買を業としていることが、定款の記載内容から明らかであり、かつ、トレーディング業務を日常的に遂行しうる人材から構成された独立の専門部署(関係会社や信託を含む)によって、売買目的有価証券が「保管・運用」されていることが望ましい。
・満期まで保有することを目的としているため、利息の受け取りと満期時の償還額の受け取りが投資の成果となる。このため、貸借対照表額は償却原価法(注1)に基づいて算定された額によって計算し、原則として期末において時価評価はしない。
満期保有目的有価証券 ・満期まで保有することを目的としているため、利息の受け取りと満期時の償還額の受け取りが投資の成果となる。このため、貸借対照表額は償却原価法(注1)に基づいて算定された額によって計算し、原則として期末において時価評価はしない。
子会社及び関連会社株式 ・子会社及び関連会社株式は、他企業への影響力の行使を目的として保有する株式であり、時価の変動は投資の成果とは言えないため、期末における時価評価はしない。
その他有価証券 ・その他有価証券は、市場動向によって売却を想定している有価証券やその他の目的で保有する有価証券が含まれるため、長期的には売却することが想定される。このため、期末においては時価評価するものの、直ちに売却するものではないことから、その評価差額は、貸借対照表の純資産の部に「評価差額金」として計上する。

5、まとめ

今回、時価評価会計を金融商品会計の視点で解説したが、一定の理解はできただろうか。どのような会社でも有価証券は保有していると考えられるので、税効果会計にくらべれば馴染みやすかったのではないだろうか。有価証券を保有していれば、証券会社等から定期的に送られてくる取引明細や残高明細などで、期中でも何度か確認しておく必要がある。

税理士との定期的な打ち合わせ機会があるようなら、そのときに、有価証券の内容と時価を確認し、投資の成果を把握し、アドバイスを受けることも経営者としての重要なつとめじゃ。金融商品に強い税理士が必要なら、税理士紹介会社に相談してみるとよい。近年は、この分野に強い税理士も増えておるので、むしろ、積極的にこの分野の税理士を探して、投資活動を強化するのも一つじゃ。

税理士紹介ラボのバナー