会社の会計シリーズ(理解編)税効果会計の2

目次

前回に続き、税効果会計について解説する。前回は、税効果会計によって、損益計算書に「会計上支払うべき税金の額」を、貸借対照表には「将来増減する税金の額」を記載することまで説明した。その具体的な科目と考え方の解説から始めよう。

1、法人税等調整額とは

まず、損益計算書上において「会計上支払うべき税金の額」を表す科目について説明する。損益計算書上では、「法人税・住民税及び事業税」という科目の次に「法人税等調整額」という科目が記載され、税法に従って実際に支払った税額が、会計上支払うべき税額に修正されるのじゃ。例をあげて説明しよう。

(表1)損益計算書 (単位:〇〇)

※特別損益の下の科目から 当期事業年度 備考
税引前当期純利益(純損失)1) 1,000 税金を払う前の利益
法人税、住民税及び事業税 2)
法人税等調整額      3)
▲600
200
税法に基づき実際に支払った税額
会計上は払わなくてよかった税額
法人税等計        4)=2)+3) ▲400 これが会計上支払うべき税額
当期純利益(純損失)   5)=1)-4) 600 税法にとらわれない、会計上の純利益

(表1)では、税法に従って実際に支払った税額を、法人税等調整額で修正して会計上支払うべき税額を算出し、企業の実際の利益を表している。

払いすぎた税額を戻す手続きともいえる。そして、ここでは、法人税等調整額がプラスで計上されているが、▲(マイナス)で計上された場合は、会計上支払う必要がある税額は、実際に支払った税額よりも多いということを表すのじゃ。

2、繰延税金資産

貸借対照表において、将来増減する税金の額を記載するのは、「繰延税金資産」及び「繰延税金負債」という科目じゃ。

貸借対照表の様式は、この解説シリーズの第4回~第6回で示したが、「繰延税金資産」及び「繰延税金負債」が表示される場所と、内容について説明する。なお、繰延税金負債は、将来の税金支払いが増える要素であり、一般的には発生しないため、説明を省くことにする。

(表2)貸借対照表抜粋

貸借対照表
資産の部 負債の部
Ⅱ.固定資産
3.投資その他の資産
繰延税金資産
Ⅱ.固定負債
繰延税金負債

会計上の正しい税額よりも多く支払った場合、その分は、認識するタイミングが違ったためじゃから、将来その分だけ税金の支払額が減ることになる。この将来少なくなるはずの税金の支払額を「繰延税金資産」という科目に計上するのじゃ。

逆に、稀に、会計上あるべき税額よりも、当期に支払う税額が少なくなる場合もある。この場合は、将来支払うべき税額が増えるため、将来のお金のマイナス要因を「繰延税金資産」に計上するのじゃ。

このタイミングのズレを、会計の世界では「将来減算一時差異」という。

3、法人税等調整額と繰延税金資産の関係

まず、法人税等調整額が発生して、繰延税金資産の計上に至るという関係じゃが、この関係を(表1)の設例を使って見てみよう。

(表3-1)損益計算書  (単位:〇〇)

損益計算書の特別損益の下の勘定科目 当期事業年度
税引前当期純利益(純損失)1) 1,000
法人税、住民税及び事業税 2)
法人税等調整額      3)
▲600
200
法人税等計        4)=2)+3) ▲400
当期純利益(純損失)   5)=1)-4) 600

(表3-2)貸借対照表

貸借対照表
資産の部 負債の部
Ⅱ.固定資産
3.投資その他の資産
繰延税金資産
200 Ⅱ.固定負債
繰延税金負債

この繰延税金資産に計上された200が、将来の税金の支払いが少なくなる額じゃ。貸借対照表では、繰延税金資産を見ることで、その企業の「将来の税金支払額に対する影響」を読み取ることができ、損益計算書における「法人税等調整額」によって、その事業年度において会計上支払うべき税額を読み取ることができるのじゃ。

4、繰延税金資産を計上する際の注意

繰延税金資産は、「資産」であるため、将来のお金を増やす要因となる「将来の支払税額の減少」が本当に実現するものでなければならない点に注意が必要じゃ。

そもそも、税額を減らすと言うことは、税金を払うことが前提になっているため、将来の課税所得がゼロや赤字の場合は支払税額が発生しないことから、減らす税金が発生しないことになり、繰延税金資産の計上は認められないのじゃ。

つまり、「資産性(回収可能性)」の有無が問われるわけじゃ。この「繰延税資金資産の回収可能性」とは、繰延税金資産が将来の支払税金を減額する効果があるかどうかの判断をいう。繰延税金資産の算定基礎である「将来減算一時差異」には、それが解消するとき(タイミングのズレが解消するとき)に、将来の課税所得を減額する効果はあるものの、このタイミングのズレが解消する時に、そもそも課税所得がなければ、税金を安くすることができないという理屈なのじゃ。

したがって、将来の課税所得が十分計上できることを検討した上で、繰延税金資産を計上しなければならないが、これを、「繰延税金資産の回収可能性の検討」といい、その検討にあたっての視点は、次のように整理されておる。

(表4)繰延税金資産の回収可能性を検討する視点

検討のための視点 検討内容
1)収益力に基づく課税所得が十分か(将来の利益水準を見積もる) 会社が営んでいる事業から、将来の利益(課税所得)を稼ぎ出す力があるのかという視点。将来とは、主に、将来減算一時差異の解消年度をいう。
2)タックスプランニングの有無(特別な計画があるのか) 例えば、含み益のある有価証券や土地(固定資産)などを売却して益出しするなど、課税所得を生み出すための特別な計画があり、しかもその計画は実現性が高いかという視点。
3)将来加算一時差異の十分性(相殺可能な一時差異の有無 将来加算一時差異は、繰延税金負債の算定基礎となるもので、将来減算一時差異の解消年度に、それと相殺できる将来加算一時差異が十分にあるかという視点。

5、繰延税金資産の回収可能性に関する判断の指針

回収可能性の検討を行う際の視点は、表4)のとおり3つあるが、現実的には、1)の将来年度における会社の収益力に基づく課税所得によって判断することが多い

しかし、将来年度の会社の収益力を客観的に判断することは実務上困難なため、過去の業績等の状況を主な判断基準として、将来年度の課税所得の見積額による繰延税金資産の回収可能性を判断する場合の指針が示されておる。

(表5)判断指針(会社の例示区分)

分類 会社の概要 摘要
期末における将来減算一時差異を十分に上回る課税所得を毎期計上している会社 一般的に、繰延税金資産の全額について、その回収可能性があると判断される。
業績は安定しているが、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等 一時差異等のスケジューリング(注1)の結果に基づき、繰延税資金資産を計上している場合は、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できる。
業績が不安定であり、期末における将来減算一時差異を十分に上回るほどの課税所得がない会社等 将来の合理的な見積可能期間(概ね5年)内の課税所得の見積額を限度として、その期間内の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、繰延税金資産を計上している場合は、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断される。
重要な税務上の繰越欠損金が存在する会社等 原則として、翌期に課税所得の発生が確実に見込まれる場合で、かつ、その範囲内で翌期の一時差異等のスケジューリングの結果に基づき、繰延税金資産を計上している場合は、当該繰延税金資産は回収可能性があると判断できる(但し、重要な税務上の繰越欠損金が非経常的な特別の原因により発生し、それを除けば課税所得を毎期計上している会社等は、3と同様の判断となる。
過去連続して重要な税務上の欠損金を計上している会社等 原則として、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金等に係る繰延税金資産の回収可能性はないものと判断される。

(注1)スケジューリング
将来減算一時差異の解消年度を見込む作業で、一時差異の原因別に行うことになる(別稿で詳説)。

6、まとめ

将来減算一時差異など、ややこしい言葉がてんこ盛りで混乱してきたのではないだろうか。会計や法律用語というものは、「もったいぶった表現」が多いため、とっつきにくいものじゃ。

しかし、本質的な意味さえ分かれば、ただの記号と同じじゃ。このような「ややこしい言葉」については、税理士に教えてもらうのが一番じゃ。税理士の経験した実例をもとに話しを聞くことができれば、一気に理解が進む。

相談できる税理士や顧問税理士がいないなら、税理士紹介会社に相談するのがベストじゃ。必ず、求める税理士に出会えるぞ。

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