会社の会計シリーズ(基本編)複式簿記その1

目次

今回から、新しい解説シリーズとして「会社の会計シリーズ」を始めることになった。シリーズを進行するにあたり、企業会計に関する「基本編」と「理解編」に分けて、企業会計のあらましや税務会計との関わり方・考え方等について解説する。「複式簿記の仕組み」から始まり、「貸借対照表」、「損益計算書」、「キャッシュフロー計算書」といった財務諸表の仕組みと作成目的などを中心に展開する予定であり、「税理士にピンポイントで質問できる経営者」の育成をシリーズコンセプトとしている。

今回は、基本編の第1回目として、会計の目的と役割について解説しよう。会計と一口に言っても、「会社法上の会社」、「公益法人」、「一般社団法人・一般財団法人」、「NPO法人」等々目的や法的性格によって様々な法人形態があり、その事業活動を管理する会計手法もまた法人によって若干異なる部分もあるものじゃ。

このシリーズでは、会社法上で定義された会社のうち、特に断りがない限り、最もなじみの深い株式会社を念頭に置いた企業会計について繙いていくことにする。

1、会社法上で定義された会社とは

2006年5月1日に施行された会社法により、会社は、「株式会社」、「合名会社」、「合資会社」、「合同会社」の4形態となった(会社法第2条第1号)。これを機に、それまでの有限会社法は廃止され、有限会社自体は新規に設立することはできなくなり、会社法施行時点で存在した有限会社は、「特例有限会社」という商号を使用する義務を負い、法律上の性格を株式会社として存続することになったのじゃ(会社法整備法第2条第1項・第3条)。

このうち最もなじみの深い株式会社の特徴は、世間一般から広く出資を募ることができることじゃ。会社は出資者に対して株式を発行し、株主となった出資者は配当権とともに経営参画権を得て、株式の保有数が多いほど会社に対して大きい影響力を持つ仕組みになっておる。

これが基本的な形じゃが、日本の場合、身内で固めた「同族会社」の数も多い。これら同族会社と一定規模の中小企業並びに大企業とは、基本的には同じ会計が適用されるが、細かい部分で幾つか違いもあり、税法上の扱いも異なるので、その項目のところで解説を加えることにする。

2、会計の基礎「複式簿記」とは

「簿記」というワードを聞いただけで顔をしかめる経営者がいるほどだから、これに「複式」などという文字が加わろうものなら、完全に拒絶反応を起こす経営者もいるのではないだろうか。これはどうやら、「簿記」で使われている「用語」のほとんどが、漢字の意味を考えると迷路に迷い込んでしまうような怪しいワードのオンパレードであることがその一因のようじゃ。まずは、この用語に対する「警戒感」や「苦手意識」の解消からとりかかろう。

「簿記」というのは、「帳簿記入」の略語で、会社で行われる取引を帳簿に記入するための方法なのじゃ。方法ということは、そこにはいくつかのルールがあり、このルールもまた、多くの人が苦手意識を持つ理由の一つといえる。実務上、経理担当者は簿記の細かいルールを知っている必要があるが、経営者に必要なのは、簿記という方法で仕組まれた会計を利用して、会社の経営状態を知り、事業を取り巻く環境に照らして将来の予想を立てることであり、細かいルールまで知る必要はないのじゃ。

言い換えれば、簿記という記録方法によって処理された数値が、会社にとってどのような意味を持つのかを理解することのほうが重要だと言うことじゃ。

3、取引の種類

株式会社の場合、株主や債権者(お金を貸してもらった銀行や買掛取引の相手先等)からお金を預かって、自社の設備や従業員に投資することで商品やサービスに新たな価値を加え、それを販売して投資額以上の金額を回収し、その回収額が利益と再投資の原資となっていくというサイクルを繰り返す活動を行っている。

会計上は、このような活動を指して「取引」と言うが、この取引はその過程で、以下の三つの要素に分けることができ、これらの各取引が正常に循環することで事業活動を継続することができるのじゃ。

  1. 調達:事業活動のために株主や債権者からお金を預かること
  2. 投資:そのお金を使って新たな価値を生み出すこと
  3. 回収:生み出された価値を販売して投資額以上の資金を回収する

4、取引の二重性

そして、これらの取引には、二つの捉え方があるのじゃ。これら三つの取引要素は相互に作用しているが、その取引が実行されることによって、たえずお金の増減が発生しているため、この増減を記録することが必要となる。「一定時点でどれだけの金額があるのか」という記録が一つ。もう一つは、この「お金の流れを記録する」ことじゃ。言い換えると、お金を「どこから調達して」、「何にどのように使って」、「現在どのような状態にあるのか」ということを把握するための記録ということじゃ。以下、「調達」、「投資」、「回収」の各取引について見てみよう。

(表1)取引の内容

増減の記録 フローの記録
調達 お金を調達すれば残高が増加する。
(現金残高増加と、そのお金の帰属先の記録が必要。)
調達先の記録
1)株主から出資金を受け入れた記録(会社の資本金となる。一方で、株主は会社の持ち主なのでお金を返す必要はない。)
2)銀行から借り入れた記録(銀行はお金を貸した債権者であり、会社はその債務を返済する必要がある)。
※返済を要しない出資金は「資本金」、将来返済しなくてはいけない借入金は「負債」ということになる。
投資 投資取引は、手持ちのお金を商品やサービスの価値を高めるために支出する。
(投資という取引によって、お金自体は減少したという記録)
1)投資先がどこなのか、お金が何に変わったのかを記録する(人件費、工場の建設、製品・材料の仕入れなど)
回収 価値を高めた商品やサービスを売って代金を回収し、お金が増えたという記録(投資したお金よりも増加しているという記録)。 1)どのような活動を行ってお金が増えたかを記録する(商品・サービスの売上高の増加、売掛金の減少)

このように、会社が事業活動として行う取引には二つの側面があるのじゃ。これらを合理的に記録する方法が「複式簿記」なのじゃ。

5、複式簿記の仕組み

複式簿記と言うのは、取引のもつ二つの側面を同時に記録するところに価値があるのじゃ。この二つの側面を記録するために、例の「借方」と「貸方」という住所を作り、それぞれ別の勘定科目で表すという手法をとるのが複式簿記じゃ。ちなみに、「借方」と「貸方」の言葉自体には何の意味もない。「借方」は左側を、「貸方」は右側を表す道路標識と考えれば良いが、その標識という役割については後述する。

ここで、複式簿記を使用した取引の例をあげてみよう。

(表2)複式簿記による取引の記録

(借方)現金  300   (貸方) 借入金 300

〔解説〕
(借方=左側)に現金300となっているのは、現金が300増加したという取引を表しており、(貸方=右側)に借入金 300となっているのは、調達方法が借り入れで、そのお金は将来返さないといけないということを表している。この「現金」と「借入金」が「勘定科目」であり、各勘定科目は、左右どちらの方に表すかによって金額の増減を示すことになっている。これは、今後、「資産」、「負債」、「収益」、「費用」を説明する中で明らかにしていくが、現金は資産科目で、左側に表すと増加を、右側に表すと減少を意味するのじゃ。

そして、このように、勘定科目を用いて「借方」と「貸方」に記録することを「仕訳(しわけ)」と言うのじゃ。

〔道路標識、「借方=左側」と「貸方(右側)」の役割とは〕
借方(左側)は、お金がどういう状態にあるのかを示すという役割
貸方(右側)は、お金が増えた原因を示す役割

6、まとめ

第1回目は、会計の基礎として複式簿記の説明にとりかかった。次回も、引き続き複式簿記の世界について解説を進めていく。基礎の基礎なので、物足りない読者がいるかもしれないが、過去に勉強した知識のブラッシュアップだと思ってもらえるとありがたい。税理士にピンポイントで質問できるようになるための第一歩を踏み出したところじゃ。ゆくゆくは、税理士紹介会社に対して、求める税理士の能力を箇条書きにできるほどの知識まで高めよう。

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