会社の会計シリーズ(基本編)複式簿記その2

目次

前回に続いて「複式簿記」の解説を進めていく。前回は、「借方」と「貸方」の役割まで解説したが、今回は「勘定科目」について、「借方」と「貸方」を絡めて解説する。

1、貸借一致の原則

一つの取引に係る「借方」と「貸方」は必ず金額が一致することになっておる。簿記は、お金の動きを、その「増減」と、「増減の理由」の二方面から記録しているだけなので、金額自体は必ず一致するのじゃ。お金の増減の理由が複数に及ぶときは、当然、勘定科目が複数になるが、その場合でも借方と貸方の金額は必ず一致するのじゃ。これを貸借一致の原則と言う。

2、勘定科目とその性質

勘定科目自体は、業種を問わず共通する科目から業界特有のものまで数百に及ぶ。会社の規模や取り扱う事業の種類によっても異なり、また、一つの会計情報を管理するにしても、大科目・中科目・小科目と枝番を付して細かく管理する会社もあるため数が多くなるのじゃが、ほとんどの勘定科目は、「資産」、「負債」、「資本」、「収益」、「費用」の5つの要素に納まるのじゃ。

また、勘定科目の種類によって、「借方」を本拠とする科目と、「貸方」を本拠とする科目に分かれるのじゃ。本拠というのは、「借方」が本拠なら、借方に金額が記入されると残高が増加し、貸方に金額が記載されると残高が減少すると言う意味じゃ。具体的には、「資産」と「費用」が借方科目で、「負債と」「収益」が貸方科目じゃ。この関係を仕訳で表すと次のようになる。

(表1)仕訳例

(借方) 給料  300
給料は「費用」の科目じゃから借方が本拠じゃ。この仕訳では残高が300増加したことになる。つまり、毎月給料が支払われると、給料という費用勘定の残高が、年間計画額に向けて増加していくことを記録することになる。
(貸方)現金預金  300
現金預金は「資産」科目じゃから借方勘定じゃ。この仕訳では残高が減少したことを表しておる。

3、資産、負債、資本、収益、費用の意味とは

この5つの要素について、それぞれの意味を解説しよう。

3-1、資産

資産とは、端的に言えば、将来のお金を生むもの、または利益に変わるものと考えればよい。例えば、会社が仕入れた商品(棚卸資産)は、いずれは仕入の額に自社の利益を載せて販売することで「売上(仕入額と利益)」というお金が入ってくる。仕入は「投資」ということができるので、ゆくゆくは投資額を回収するとともに利益というお金の増加をもたらしてくれるわけじゃ。資産は、借方勘定なので、借方に計上されれば増加を示し、貸方に計上されれば減少を意味するわけじゃ。

3-2、負債

逆に、負債というのは、将来必ず返さなければならないもの、又は費用となって社外へ出ていくものを言う。将来、会社のお金を減少させるものが負債じゃ。借入金などはその典型で、銀行から借りたお金は約定に従って返済しなければならない。借入れたときは、資産である現金が増え、借入金という負債も増加する仕訳となる。返済が始まると、負債と現金預金が減少するという関係じゃ。

買掛金も同様で、「仕入」という費用と「買掛金」という負債が増加する取引となる。実際に仕入代金を支払うまでは、負債勘定で管理し、約定日に支払うことで、負債と現金預金が減少するという関係じゃ。

3-3、資本(純資産)

資本と言うのは、一言で言えば「資産から負債を引いたもの」となり、出資者である株主が所有している部分を意味するのじゃ。将来の利益を生み出す金額から将来必ず支払わなければならない負債を差し引くことで、株主の純粋な持分がわかるわけじゃ。現在の財務諸表は、資本とは呼ばずに、純資産と記載している。

純資産は、株主が会社に出資(投資)した株主資本と、会社の事業活動の成果としての利益を貯めてきた利益剰余金(内部留保)から成り立っている。そして、純資産は、負債と同じく貸方勘定なのじゃ。また、純資産として表される金額は、会社が実際に持っている現金の有高とは違うということに留意しておいてほしい。これについては、今後逐次説明することになる。

4、将来の利益を生み出す「資産」と「費用」

資産も費用はともに借方勘定じゃが、ちょっと意味が掴みづらいのではなかろうか?借方と貸方は言葉には意味がなく、単に右か左かという標識のようなものと言ったが、簿記のルールの中で、資産と費用が同じ側にある理由は知っておく必要がある。以下の仕訳を例にとって見ると、その共通項が見えてくるのじゃ。

(表2)仕訳例

(借方) 資産  300 (貸方)現金預金  300
営業用車両を購入し、現金で支払った場合、購入した車両は減価償却資産という資産に計上され、現金という資産が減少する。これは、現金が車両に姿を変えたとも言える。そして、この車両と言う資産は、商品やサービスを販売するためのツールとして使われ、将来の利益を生み出すことになる。
(借方) 費用  300 (貸方)現金預金  300
営業担当の従業員に給料を支払うと費用が増加し、現金という資産が減少する。これは、お金が従業員の給料と言う費用に姿を変え、営業と言う活動を行う原動力として使われることで、将来の利益を生み出すことになる

5、財務諸表

企業会計の役割とは、投資家や株主に対して、会社の財務の状況を知らせ、将来生み出すことができる利益を予測するための情報を提供することにある。その情報を伝えるためのツールとして、5つの要素で成り立つ各勘定科目をまとめたものが「財務諸表」じゃ。財務諸表は、「貸借対照表」、「損益計算書」、「キャッシュフロー計算書」、そして、貸借対照表と損益計算書の特記事項を記載した「注記表」で成り立っておる。

(表3)財務諸表とその役割

財務諸表 役割
貸借対照表 特定の時点(決算期)で、資産・負債・純資産がどれだけあるのかを示す財務諸表。貸借対照表で扱われる勘定科目は、ストック科目と呼ばれ、残高を示すことが目的じゃ。
損益計算書 ある期間(1事業年度)に、費用・収益がどれだけ発生したかという損益の増減を示す財務諸表。損益計算書で扱われる勘定科目はフロー科目と呼ばれる。
キャッシュフロー計算書 貸借対照表や損益計算書では直接得ることのできない、お金の増減に関する情報を示すもの。キャッシュフロー計算書は、他の財務諸表と捉え方が異なるので、ある程度会計のセンスが高まるシリーズ後半で解説しよう。
注記表 企業会計のルールとして、貸借対照表と損益計算書それぞれの内容について、特に知らせるべき事項を記載した財務諸表。

6、まとめ

このシリーズは、受験対策用の説明ではないので、会計的なセンスを身につけるための読み物として捉えれば良い。解説を読みながら個々の勘定科目を月別に追ってみるのもいいし、社内の経理担当者などと勘定科目の内容について言葉を交わすことも会計センスを磨くためには有効じゃ。一定の知識がついて、税理士の紹介を依頼するときのリクエスト内容を箇条書きにできるようになるまで、焦らずにセンスを高めることに意識を置くと良い。

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