税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第13回《保険料》

目次

企業は、役員や従業員の福利厚生及び様々なリスクを想定して保険に加入していると思うが、最近の保険は種類が多様化したことで、必要な経理処理も複雑かつ多岐にわたっておるのが実情じゃ。このため、税務調査でも注目される費用科目となっているので注意が必要じゃ。以下、保険種類ごとの税務上の取扱いと、税務調査で見られるポイントとその内容について解説する。

1.保険契約の税務上の注意事項

保険の種類によって保険料の経理区分が異なる。このため、それぞれの税務上の取扱いと経理処理について理解しておかなければならないので、以下にその内容を整理する。なお、がん保険は省略する。
(表1)保険種類ごとの税務上の取扱い

保険金受取人 保険料の取扱い
死亡保険金 満期保険金 主契約部分 特約部分
養老保険 法人 資産(注1)計上 損金算入
従業員遺族 従業員 給与 損金算入
従業員遺族 法人 1/2を資産計上 損金算入
1/2を損金算入(注2) 損金算入(注2)
定期保険 法人 損金算入
従業員遺族 損金算入(注2)
定期付き養老保険 ・保険料が、養老部分と定期部分に区分されていれば、それぞれの保険料を「養老保険」と「定期保険」の取扱いに従って処理する。
・保険料が区分されていない場合は、「養老保険」として取り扱う。
長期平準定期保険 法人 〔保険開始から保険期間の6割相当までの期間の取扱い〕
1/2を資産計上し、1/2は損金算入(注4)。
〔保険期間の6割相当を経過後の期間の取扱い〕
支払保険料は損金算入でき、6割相当期間分の1/2を資産計上した分は、期間の経過に応じて損金に算入する。
逓増定期保険 法人 被保険者の満期時の年齢等に応じて、取扱いが異なる(注3)
〔保険開始から6割相当までの期間の取扱い〕
支払保険料の1/2、2/3、3/4が資産計上。
〔保険期間の6割相当を経過後の期間の取扱い〕
支払保険料は損金算入でき、資産に計上した分は期間の経過に応じて損金に算入する。
長期傷害保険 〔保険開始から105歳に達するまでの期間の取扱い〕
7割相当までの期間について、支払保険料の3/4を資産計上
〔保険期間の7割相当を経過後の期間の取扱い〕
支払保険料は損金算入でき、資産に計上した分は期間の経過に応じて損金に算入する。
〔保険期間の5割相当を経過後の期間の取扱い〕
支払保険料は損金計上でき、資産計上した分は、期間の経過に応じて損金算入する。

(注1)

資産計上と損金となる費目
養老保険の場合は以下のような取り扱いとなる。
死亡保険金受取人が法人で、生存(満期)保険金受取人が被保険者の場合、損金に算入できる費用科目は「支払保険料」と「給与」となり、死亡保険金受取人が被保険者の遺族で、生存保険金受取人が法人の場合は、損金に算入できる費用科目は福利厚生費、資産計上の科目は保険料積立金となる。

(注2)

支払保険料を損金算入できるが、役員等の特定の者のみを被保険者とする場合は、給与とされるので注意が必要じゃ。

(注3)

逓増定期保険
この保険の場合は、加入する被保険者の年齢、保険期間、保険料払込期間の設定方法によって、損金算入額は、「全額損金」、「1/2損金」、「1/4損金」と異なるのじゃ。全額損金算入は稀なケースじゃ。

(注4)

保険期間に応じて、保険料の一部を資産計上する場合の勘定科目は「前払保険料」に計上し、6割の期間分の場合は残りの4/10で案分して毎年損金に算入することになるのじゃ。

2.税務調査におけるチェックポイント

(表1)をもとに、税務調査で主に着目される点について整理しておこう。保険種類ごとの経理処理のあり方を(表1)で確認しながら、以下の点に注目してみると理解しやすいはずじゃ。なお、これらは、勘定科目の仕訳の問題もあるので、保険契約を締結する時点で税理士に契約内容を提示し、アドバイスを得ておくと良い。

2-1、資産計上すべきものが含まれていないか

契約内容によって、保険料の一部を「保険積立金」や「前払金」として処理しなければならないものがあるが、税務調査では、この処理が適正になされているかを、保険証券や保険料払込案内書等をもとにチェックされる。具体的には、死亡保険金受取人、満期保険金受取人は会社か被保険者の遺族かなどが確認される。

2-2、短期前払費用処理の妥当性

保険契約の内容を確認し、短期前払費用の要件を満たしているかをチェックされる。短期前払費用は、「1年分の保険料を一括して支払ったか否か」、「保険の始期が支払った日の属する事業年度と同じか」、また、「その支払ったサイクルを継続してその事業年度の損金に計上しているか」という点に着目される。

2-3、役員の個人的(家事)なものはないか

税務調査のあらゆる場面で注目されるのが、役員の私的支払との混同じゃ。同族性の強い会社でよくみられる事象じゃが、公私混同して、役員の自宅の火災保険や役員個人の自動車保険など、本来個人が負担すべきものが、会社の費用として計上されていないかという点に着目される。役員の個人のものと認定されれば、保険料ではなく、役員報酬、役員賞与として取り扱われることになり、他の費用科目でも注意を促している通り、損金算入が否認されると、会計上の利益はそのままで、法人税の計算上会社の課税所得が上がって税額もあがるという事態に陥ることになるので要注意じゃ。

2-4、会社の従業員以外の者の保険料を支払っていないか

被保険者名簿とその他保険関係書類とともに、従業員の名簿や給与台帳など多方面から保険内容と照合して、保険加入者のチェックが行われる。ありがちなのが、同族会社における子会社の保険料を含めて一括して保険会社に支払うような場合じゃ。後日精算するつもりでも損益勘定の場合、一旦処理してしまうと失念することも多い。社内の複数検証体制が整っていない場合、また、従来から親会社と子会社の経理上の連携がずさんで、どんぶり勘定になっているような場合は要注意じゃ。

立て替えなければならない事情があるなら、決裁伺い等の記録を残し、且つ、立替金勘定を使用して、決算期には気が付くようにしておくことじゃ。また、保険契約は、契約期間中の保険内容の見直しや、新規契約による保険件数の増加など、管理すべき事項が多いにもかかわらず、保険料の支払い期日や満期日などを把握していないことが多い。保険契約台帳や保険料支払い予定表などを作成し、経理処理が適正に、そして同じ処理が継続して行われるような仕組みを作ることが必要じゃ。

3.まとめ

保険会社の説明で何となくわかったような気になって、節税につながるならいいだろうという安易な考えで保険契約することがないよう注意が必要じゃ。冒頭に述べたように、保険商品は多様化し、税制改正もあって個々の経理処理が複雑化しているため、日ごろから、保険種類ごとの処理について税理士のアドバイスをうけるなど、適時適切な処理を心がけることが肝要じゃ。ちなみに、税務当局は、法人の保険契約について損金算入のハードルを上げる動きを強めている。税制改正への対応も含めて、日ごろから税理士とのコミュニケーションを高めておくことが求められる。

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