収益認識会計基準シリーズ7回 5つのステップ その6

目次

さて、収益認識会計基準5つのステップのうち、ステップ3「取引価格の算定」に係る変動対価の取り扱いと契約における重要な金融要素まで解説を進めたが、ステップ3でまだ説明すべき事項が若干残っているので、前回に引き続いて解説し、その後、ステップ4の「履行義務への取引価格の配分」に入っていこうと思う。

1、現金以外の対価

1-1、現金以外の対価に係る会計処理

契約における対価が現金以外である場合だが、この場合の取引価格を算定するには、その対価は時価をもって算定することになるのじゃ。現金以外の対価の時価を合理的に見積もることができない場合は、その対価と交換に「顧客に約束した財またはサービスの独立販売価格」をもとに対価を算定することになる。

1-2、現金以外の対価に係る法人税法上の処理

法人税法上は、益金(課税所得計算上の利益のこと)の額に算入する金額は、別段の定めがあるものを除いて、その「販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額」またはその提供をした役務(サービス)につき「通常得るべき対価の額に相当する金額」と規定されている。

ややこしい言い回しじゃが、要は、第三者間で通常付される価額(いわゆる時価)をいうものとされておるので、現金以外の対価である場合は、その対価を時価で測定することになるということじゃ。また、その対価自体を合理的に見積もることができない場合は、対価と交換に顧客に約束した財またはサービスの独立販売価格を基礎として算定することになる点では会計処理と同様じゃ。

2、顧客に支払われる対価

顧客に対して支払われる対価は、顧客から受領する別個の財またはサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額しなければならないことになっておる。

2-1、顧客に支払われる対価に係る会計処理

キャッシュバックやリベート等に代表される顧客に支払われる対価には、企業が顧客に対して支払う、または支払うと見込まれる現金の額のほか、顧客が企業に対する債務の額に充当できるものの額を含む。そして、この顧客に支払われる対価は、顧客から受領する別個の財またはサービスと交換に支払われるものである場合を除き、取引価格から減額しなければならない。

顧客に支払われる対価に「変動対価」が含まれる場合は、取引価格の見積りを「変動対価のルール(注1)」に従って行うことになる。また、顧客に支払われる対価を取引価格から減額する場合には、次の(1)または(2)のいずれか遅いほうが発生した時点で収益を減額する。

(表1)取引価格から減額する時点(このうちいずれか遅い時点)

(1)関連する財またはサービスの移転に対する収益を認識する時
(2)企業が対価を支払うかまたは支払いを約束する時(その支払が将来の事象を条件とする場合も含む。また、支払の約束は、取引慣行に基づくものも含む。)

(注1)変動対価のルール
企業会計基準委員会が示す「収益認識に関する会計基準」の第50項から第54項に記載された対価の見積り方法等をいう。ここでは説明を省略する。

2-2、顧客に支払われる対価に係る会計処理

資産の販売等に係る契約において、キャッシュバックのように、相手方に対価が支払われることが条件となっている場合には、次に掲げる日のうちいずれか遅い日の属する事業年度においてその対価の額に相当する金額を当該事業年度の収益の額から減額することになる。

(表2)取引価格から減額する時点(このうちいずれか遅い時点)

(1)その支払う対価に関連する資産の販売等に係る法人税法第22条の2第1項(注2)に規定する日または同条第2項に規定する接近する日。
(2)その対価を支払う日またはその支払を約する日。

この税法上の取り扱いは、顧客に支払われる対価の額を収益の額から減額するという処理について、収益認識会計基準の取り扱いと実質的に同様である。また、減額する時点についても、(1)または(2)の日のうちいずれか遅い時点を基準とする点で同じである。

(注2)法人税法第22条の2・・・条文を参考
1項:内国法人の資産の販売若しくは譲渡又は役務の提供(以下この条において「資産の販売等」という。)に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、その資産の販売等に係る目的物の引渡し又は役務の提供の日の属する事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

2項:内国法人が、資産の販売等に係る収益の額につき一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って当該資産の販売等に係る契約の効力が生ずる日その他の前項に規定する日に近接する日の属する事業年度の確定した決算において収益として経理した場合には、同項の規定にかかわらず、当該資産の販売等に係る収益の額は、別段の定め(前条第四項を除く。)があるものを除き、当該事業年度の所得の金額の計算上、益金の額に算入する。

3、ステップ4・取引価格の契約における履行義務への配分

収益認識に関する会計基準では、履行義務の充足時点または履行義務の充足に応じて収益を認識するため、履行義務が収益の認識単位となる。

3-1、取引価格の各履行義務への配分

契約が複数の履行義務に分割される場合は、それぞれの履行義務単位で収益が認識されるので、ステップ3で決定した「取引価格」全体を、ステップ2で識別した履行義務に配分することになるのじゃ。この取引価格の配分は、財またはサービスの顧客への移転と企業が権利を得ると見込む対価の額を描写するように行い、取引開始日の独立販売価格の比率に基づいて配分することになるのじゃ。

独立販売価格とは、企業が財またはサービスを他の財またはサービスと合わせて提供するのではなく、単独で提供する場合の価格をいう。この独立販売価格として最適なのは、企業が財またはサービスを同様の状況において、同様の顧客に独立に販売する場合の観察可能な価格(いわゆる「市場価格等」」である。

独立販売価格を直接観察できない場合には、これを見積もらなければならないことになる。そして、この見積もりに当たっては、企業が合理的に入手できる全ての情報を考慮しなければならない。全ての情報とは、「市場の状況」、「その企業特有の事情」、「顧客に関する情報等」を含むものじゃ。なお、独立販売価格の見積りには次の方法がある。

(表3)独立販売価格の見積り方法

見積方法 内容
調整した市場評価アプローチ 財またはサービスが販売される市場を評価して、顧客が支払うと見込まれる価格を見積もる方法。
予想コストに利益相当額を加算するアプローチ 履行義務を充足するために発生するコストを見積もり、その財またはサービスの適切な利益相当額を加算する方法。
残余アプローチ 契約における取引価格の総額から、契約において約束した他の財またはサービスについて観察可能な独立販売価格の合計額を控除して見積もる方法。ただし、この方法が使用できるのは、以下のいずれかに該当する場合に限る。
(1)同一の財またはサービスを異なる顧客に、同時またはほぼ同時に幅広い価格帯で販売していること。
(2)その財またはサービスの価格を企業が未だ決定しておらず、その財またはサービスを独立して販売したことがないこと。

3-2、影響を受ける可能性がある取引

(1)機器の販売とメンテナンス等保守サービスの提供が別個の履行義務と判断されるものの、保守サービスを単独で販売していないケースのように、機械の販売代金と保守サービス料の独立販売価格が直接観察できない場合には、独立販売価格を見積もらなければならない。この独立販売価格の見積りにあたっては、その企業の提供する保守サービスが一般的なものであるときは、同業他社が同様の保守サービスを行っている場合の価格等に基づく方法が考えられる。

(2)「顧客に付与されたポイント」が独立した履行義務であると判断された場合には、取引価格を、販売した商品とポイント部分に独立販売価格の比率に基づいて配分する。このとき、ポイントの独立販売価格については、ポイントの利用方法に応じた見積もりが必要となる。たとえば、顧客がこのポイントをその企業から購入する商品の値引きとして使用する場合は、その値引き額等を参照して独立販売価格を見積もることが考えられる。

また、顧客が一定量のポイントと商品を交換する場合は、その交換される商品の価格等を参照して独立販売価格を見積もることが一般的な方法じゃ。

3-3、法人税法上の取り扱い

税務上、実質的な取引の単位を収益計上の単位とし、かつ益金の額に算入する金額は、別段の定めがあるものを除き、その販売若しくは譲渡をした資産の引渡しの時における価額またはその提供をした役務につき通常得べき対価の額に相当する金額とされることから、会計上適正に見積もられたものについては、独立販売価格により各履行義務に配分された金額を益金算入額とすることが認められる。
端的にいえば、会計上適正に見積もってあれば、税務上もその金額を認めると言うことじゃ。

4、まとめ

ここまでの解説で5つのステップのうちの4つまでの説明を終えたことになるが、顧問税理士がいるようなら、要所ごと(ステップごと)にレクチャーを受けると理解が進むと思う。もし、顧問税理士がいないようなら、税理士紹介会社に相談して、自社にとって最適な税理士と顧問契約を結ぶことをお奨めする。

会社としては顧問税理士がいると何かと心強いし、経営者にとっては、重要な経営判断を迫られたときなどの相談相手としても最適じゃ。

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