会社の会計シリーズ(基本編)損益計算書その1

目次

この回から損益計算書の解説に入っていく。損益計算書は、収益と費用の差額から、ある期間(事業年度)の損益を計算することを目的とする財務諸表じゃ。損益計算書は、いわゆる会社の儲けを算出するのじゃが、注意しなければいけないのは、必ずしも実際に稼いだ現金の量と同じにはならないと言うことじゃ。

黒字倒産という言葉があるが、損益計算書上では利益が上がっていても、実際には資金繰りが上手くいかずに、手形の不渡りを出してしまい、これが2度続くと手形取引が停止されて、事実上の倒産となってしまうのじゃ。このあたりのメカニズムも含めて解説を進めていこう。

1、収益と費用の計上のタイミング

収益は実現主義、費用は発生主義で計上されるため、実際のキャッシュの動きとは一致しない。これは、費用収益対応の原則と言って、実現した収益に対応して費用を配分すると言う考え方じゃ。一つの例として、売上と売掛金の関係を見てみると分かりやすい。

商品が売れて「売上」を計上するときに現金を受け取るなら収益とキャッシュは一致するが、売掛金の場合は、約定に基づく決済期日まではキャッシュが入らないため、損益計算書上は収益が上がっているにもかかわらず、手元にキャッシュがないという状態になる。そして、売上計上日(品物引渡時)から決済日までの期間が長ければ長いほど、資金繰りが悪化することになるため、掛売の取引をする際には、決済サイトの決め方が重要になってくるのじゃ。

また、売掛金というのは、貸付金と同じで、相手の経営状況によっては回収できないこともある点に注意しないといけない。これは、「貸倒引当金」と関係するので、ここでは詳述しないが、損益計算書という財務諸表は、あくまでも1事業年度における「会社の経営成績」を会社内外のステークホルダーに示すとともに、経営者の評価を決めるためのものであり、商取引上の細かいルールなどは、具体的には見えてこないということをおぼえておいてほしい。

2、損益計算書の役割

損益計算書は、経営成績を示す財務諸表という説明をしたが、会社の資金繰りを考えれば、キャッシュを中心とした財務諸表に作り変えればいいという声を聴くこともある。しかし、キャッシュにこだわりすぎると、別の問題が出てくるのじゃ。

例えば、会社が20年使用することを見込んで工場を新設したとする。キャッシュの動きだけに着目すると、工場を建てた年に建設費という大金が流出し、それ以降の年度には工場の建設に係るキャッシュが流出することはない。実際には、建設にかかった費用は、その後20年にわたって製品を生み出し、収益を獲得することで回収していくことになるのじゃが、この毎年生み出される収益に費用を対応させて示すのが損益計算書なのじゃ。

そして、対応させる費用は、減価償却費という費用であり、端的に言えば、20年間にわたって費用を配分することになるのじゃ。キャッシュを増やしたことのみを経営者の評価の基準とすると、経営者は誰も大規模な投資をしなくなってしまうじゃろ。会社が成長するためには、計画に基づいて、大規模な投資を行うことも必要だから、費用収益対応の原則にしたがって、損益計算書には経営状況を知るために必要な情報を表示するわけじゃ。

3、会社の活動実態を示す

費用を発生主義で計上し、収益を実現主義で計上するという原則は、もう一つの役割がある。それは、会社の活動実態を正確に表すことにある。費用と収益は、会計のルールにしたがって、期末には「繰り延べ」や「繰り上げる」処理を行うことで、会社の将来の収益性を予測することに役立つのじゃ。

先述の新工場の建設で言えば、20年間にわたって収益を生むことを前提とした建設費用を、20年間にわたって費用配分(減価償却費)することで、将来にわたって、同じような収益・費用の構造が保たれるだろうとの予測をたてることができるのじゃ。

株主をはじめとしたステークホルダーにとって、会社の活動の実態を把握し、将来を予想するためには、収益と費用に関する情報を整理した損益計算書は重要且つ不可欠な存在なのじゃ。

4、損益計算書の仕組み

損益計算書の様式は、本解説シリーズの第3回講座で一度紹介しているが、この様式の中の各項目について解説していこう。沢山の項目があるが、各項目は会社の活動のどの部分(段階)でどれだけの利益を出しているかを示している。

(表1)損益計算書様式

当期事業年度 前期事業年度
売上高
売上原価
1)
2)
×××× ××××
売上総利益 3)=1)-2) ×××× ××××
販売費及び一般管理費 4) ×××× ××××
営業利益(営業損失) 5)=3)-4) ×××× ××××
営業外収益計 6) ×××× ××××
営業外費用計 7) ×××× ××××
経常収益(経常損失) 8)=5)+6)-7) ×××× ××××
特別利益 9) ×××× ××××
特別損失 10) ×××× ××××
税引前当期純利益(純損失) 11)=8)+9)-10) ×××× ××××
法人税、住民税及び事業税
法人税等調整額
12)
13)
×××× ××××
法人税等計 14)=12)+13) ×××× ××××
当期純利益(純損失) 15)=11)-14) ×××× ××××

4-1、売上総利益

「売上」から「売上原価」を差引くと「売上総利益」が算出される。売上原価は、販売した製品や、仕入れた商品の価格を言い、製品を自社工場で作っているときは、その製造にかかった金額が売上原価となる。こうやって計算された売上総利益は、一般的には「粗利益(「そりえき」又は「あらりえき」)と呼ばれておる。この売上総利益を売上高で除したものが「売上総利益率」といって、会社が扱う製品や商品の収益力を示すため、この数値は高いほど良いことになる。

4-2、売上原価

ここで注意すべきは、「売上原価」というのは、あくまでも「売れた商品等」の原価であって、仕入れた品物または製品の全ての原価ではないということじゃ。100個仕入れて10個しか売れなければ、10個の原価が売上原価となり、売れ残った分は「棚卸資産」として、基本的には翌期以降の売上げのもととなる。売れずに在庫期間が長期化し、品物が陳腐化していけば、価値が低下し、最終的に利益を出せないか、損失を計上することになるかもしれない。そうなれば仕入の失敗となる。

しかし、この状況と言うのは、損益計算書からだけでは読み取ることができないのじゃ。前回まで解説していた、貸借対照表の「棚卸資産」という勘定科目の残高や、ずっと後に説明することになる「キャッシュフロー計算書」などを合わせてみることで総合的な情報を読み取ることができるのじゃ。

4-3、営業損益

売上総利益から販売費及び一般管理費を控除すると、営業損益が算出される。販売費及び一般管理費と言うのは、製品を作ったり商品を仕入れたりするために直接要した費用以外で、通常の営業活動を行うために必要な費用をいい、「給料手当」、「水道光熱費」、「会議費」、「交際費」などがある。要は、会社が事業を行うために必要な費用じゃな。

4-4、経常損益

営業損益に営業外収益を加えて営業外費用を差し引くと、経常損益が算出される。営業外というのは、製品の製造から販売、商品の仕入れから販売といった通常の営業循環で生じるもの以外と言う意味じゃ。いわゆる「財務活動」と言われる分野の収益と費用のことじゃ。

財務活動と言うのは、会社が事業の為に調達して余った資金や、その他の余剰資金を運用することを言い、例えば、有価証券を取得して運用することも財務活動の一つじゃ。この場合、運用益を計上できることもあれば、運用損を計上しなければならないときもある。

このように、通常の営業活動以外の活動で利益をあげることも会社を存続させるためには必要なことであり、この活動は、会社として「常に」行っていることから、「経常的に発生する損益」として損益計算書で表示されることになっておるのじゃ。報道などで会社の業績を公表するときなどは、この「経常損益」を使うことが多い。

5、まとめにかえて

次回は、経常損益から下の特別損益以降の解説をするが、最終的に法人税の話しに入っていくことになる。配当可能利益の計算や、納めるべき法人税の計算は、経営者としては最も気になるところじゃ。過去の自社の損益計算書をひもとき、会社の業績と納税額について、どのように計算されているのかを税理士に質問してみるのも良い。顧問税理士なら自社の強いところも、泣き所もおさえているはずじゃ。今後の経営の在り方を見つめ直す良い機会となろう。まだ、顧問税理士契約がないようなら、税理士紹介会社へ相談することを推奨する。じっくりとヒアリングして、自社にとって最適な税理士を紹介してくれるじゃろう。

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