目次
前回に引き続き貸借対照表の解説を続けよう。前回は、流動資産と固定資産、資産の回転率が上がることによって会社に良い効果をもたらすことを説明した。今回は、具体的な「資産」を取り上げて、さらに説明を加えることにする。
1、持っているだけではお金を生まない資産とは
固定資産、とりわけ減価償却資産や無形固定資産の取得は、利益を獲得するための手段としての投資なのだが、それ自体は何の利益も生まない減価償却資産もある。例えば、会社の本社ビルじゃ。本社ビルは、会社の中枢機能を集約して事業を司ることを目的に取得するわけじゃが、いわゆる本部機能と言うのは、立派なビルを建てなくても果たせる。本社は店でもなければ工場でもなく、直接お金を生む仕事をする場所ではないため、極端な言い方をすれば、見栄を張るだけのお飾りみたいなものじゃ。
例えば、本社ビルの建設に50億円かかったとしよう。50億円と言うキャッシュは、「本社建物」という減価償却資産に姿を変えたわけじゃ。これが製品工場なら、製品を製造して市場に流通させ、売上高とともに利益を生み出してくれる立派な投資資産なのじゃが、本社機能だけでは何も生み出してくれない資産じゃ。
また、本社ビルは通常の減価償却資産同様、「減価償却費」という費用が毎年発生することになるが、50億円と言う投資額は、その減価償却期間内で回収するというのが、会計上の考え方じゃ。本社ビルは工場ではないため、基本的には回収原資がないということになる。したがって、事業部門のあげた利益から負担する「会社の共通間コスト」という位置づけじゃ。経営分析を扱う「管理会計」上は、会社のコストとして各事業部門に配賦され、事業部門別損益に大きな影響を与えることになる。
このような事情もあるため、この例で言う50億円の本社ビルを建てたとしても、自社のオフィスは一部にとどめ、他の階やスペースを賃貸物件とするケースも多いのじゃ。10階建てのビルなら、本社は3階~5階までで、1階~2階を共用スペース、6階~9階までを賃貸オフィス、10階を貸し会議室、地下に大規模なコンベンションホールを設けるなど、賃貸料(不動産収益)でビルの建設費を回収しようと言うわけじゃ。
いずれにしても、減価償却資産は、将来の収益に対応させられるという考え方で、法定償却期限までの各年に減価償却費と言う費用を「配分」していくものじゃから、貸借対照表に記載される「減価償却資産」の残高は、まだ費用になっていない分と考えれば良い。
2、土地の考え方
土地は、貸借対照表の固定資産の内訳として、減価償却資産とともに固定資産として残高が示されている。土地も、将来の収益を得るために取得したものじゃから、本来は減価償却してもおかしくない資産じゃな。しかし、土地は建物や工場などと違って、「使用期間の限界(法定耐用年数)」というものがないのじゃ。
建物などは、古くなれば建て替えるため、使用期間(法定耐用年数中)に獲得する収益に対応して、費用を各期間に配分するわけじゃが、土地の場合は何年でも使用可能じゃ、このため、土地を使用できる年数を見積もって、規則的な費用配分をすることができないのじゃ。このような資産特性のため、土地は減価償却の対象となっておらず、期末貸借対照表における土地の残高(簿価)は、取得原価で記載されることになっておる(事業用か否かによって評価方法が異なる点にも注意)。
3、無形固定資産
減価償却資産などの有形固定資産のほか、形のない「無形固定資産」についてもみておこう。形がないということじゃから、「権利」に関する資産なのじゃが、これも減価償却する必要があるのじゃ。主なものは次の通りじゃ。
(表1)減価償却を要する無形固定資産
- 鉱業権(租鉱権及び採石権その他石を採掘又は採取する権利を含む)
- 漁業権(入漁権を含む)
- ダム使用権
- 水利権
- 特許権
- 実用新案権
- 意匠権
- 商標権
- ソフトウエア(他者からの購入か自社作製かを問わない)
- 育成者権(種苗法に基づき、植物の新品種を開発し登録しや者に認められる知的財産権の一つ)
- 営業権(その企業の永年にわたる「伝統」と「社会的信用」、「立地条件」、「特殊の製造技術」及び「特殊の取引関係」の存在並びにそれらの独占性等を総合した、他の企業を上回る企業収益を獲得することができる「無形の財産的価値」を有する事実関係を言う。なお、営業権は旧称で、現在は「のれん」で統一されている。)(注1)
- 専用側線利用権(鉄道事業者に対して鉄道又は軌道の施設を要する費用を負担し、その鉄道又は軌道を専用する権利)。
- 鉄道軌道連絡通行施設利用権
- 電気ガス供給施設利用権
- 熱供給施設利用権
- 水道施設利用権
- 工業用水道施設利用権
- 電気通信施設利用権
(注1)「のれん」について
「のれん」というのは、企業結合の際に生じる「買収差額」を言う。例えばA社が60億円でB社を買収し、B社の純資産額(時価)が40億円であった場合は、60億円-40億円=20億円が「のれん」となるのじゃ(会社がお金を支払って取得したものに限る)。
〔買収例〕
B社の資産の現在価値100億円、負債価値60億円で総資産の現在価値は40億円であるところ、B社の株価は120円で、5千万株発行しており、株式時価総額は60億円である。
A社は、株式時価総額相当額を支払って、B社の全株式を取得すると、60億円支払って手に入れる会社の現在価値は40億円であることから、この差額20億円を、B社の「超過収益力」と考えて「のれん」勘定に計上する。
この仕訳は、以下のとおり。
(借方) | 買収されたB社の資産 | 100 | (貸方) | 買収されたB社の負債 | 60 |
のれん | 20 | 現金預金 | 60 |
4、投資その他の資産及び繰延資産
固定資産のうち、有形固定資産、無形固定資産以外のものを「投資その他の資産」と言う。会社が持っている有価証券や貸付金の中には、売却や回収までに1年を超えるようなものもあり、このような資金化できるまでに長時間を要する資産で、有形固定資産にも無形固定資産にも該当しない資産を言うのじゃ。
一方、繰延資産とは、会社が支出した費用のうち、その支出の効果が支出以後1年以上に及ぶもので、一定の要件に合致するものを言い、減価償却資産同様、定められた期間にわたって費用配分(償却)しなければならないのじゃ。会社創立費や開業費などの会社法で定められたもののほか、法人税法で規定されたものもあるのじゃ。繰延資産の範囲を整理すると下表のとおりとなる。
(表2)繰延資産の範囲
区分 | 内容 | |
---|---|---|
会社法 | 創立費 | 創立登記費用、発起人報酬を含め法人の負担となるもの。 |
開業費 | 会社設立後事業開始までの間の準備のために特別に支出する費用。 | |
開発費 | 新技術、会社機構の刷新、資源開発又は市場開拓のために特別に支出する費用。 | |
株式交付費 | 資本金の増加に伴う登記時の登録免許税等。 | |
社債発行費 | 社債券印刷、その他発行に係る費用。 | |
税法上 | 自己が便益を受ける施設等(公共その他) | 表3を参照 |
資産を賃貸し又は使用するための費用」 | 2-1~2-3参照 | |
役務の提供を受けるための費用 | チェーン店の加盟一時金やノウハウ使用契約に基づく支払一時金など。 | |
広告宣伝用資産の贈与のための費用 | 看板、ネオンサイン等の贈与費用 | |
その他自己が便益を受けるための費用 | プロスポーツ選手との専属契約に要した契約金、同業団体等への加入金など。 |
5、まとめ
今回の内容をまとめると次のようになる。
- 減価償却資産は、事業用の資産でない場合は、将来の利益を生まない。その資産となった分の資金は流動性が低下(固定化)し、資金効率が下がる。
- 貸借対照表に記載された有形固定資産の金額は、その資産の値段を示すのではなく、未だ費用になっていない分と考えれば良い。
- 「のれん」とは、企業買収において、株式の時価総額をもって買収した会社の現在価値との差額を言い、無形固定資産として減価償却しなければならない。
普段あまりきかないような言葉がでて来るようになったので、たまに税理士との勉強会を開催するなど、会計用語とその取り扱い等について注意しておくと良い。顧問税理士との契約がない場合は、税理士紹介センターで、自らの求める税理士人材の像をできるだけ詳細に伝え、自社に最適な税理士を紹介してもらうと良い。