税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第24回《仕入》

目次

今回は、売上に対応する「仕入」について、税務調査におけるポイントとともに経理上の注意事項を解説しよう。税務調査における「仕入」についての着眼点は、「仕入割戻し処理の適切性」、「架空仕入れの有無」、「収益・費用対応の原則に従っているか」、「決算期末仕入の適正性」の4点じゃ。

1、仕入割戻し処理の適正性

まず、仕入割戻しという処理について知っておく必要があるが、仕入割戻しが発生する会社に割戻し分を支払ってくれる会社にとっては、「売上割戻し」となる関係にあるので、この両方について整理しておこう。

(表1)仕入割戻しと売上割戻し

仕入割戻し 売上割戻し
仕入割戻しは、仕入先から一定期間に多量又は多額の取引をした場合の仕入代金の返戻(へんれい)を言い、企業会計上、当期の仕入高から控除するか、または、営業外収益として計上することとされている。この経理処理については、税法上も認められているが、その計上時期については、次の区分に応じて処理しなければならないので注意が必要じゃ。

1.《発生基準の適用要件》
(1)算定基準が、「購入価額」または「購入数量」に基づいており、かつ、契約その他の方法により、その算定基準が明示されているものについては、その割戻しの対象となる商品等を購入した日の属する事業年度に計上しなければならない。

(2)上記(1)に該当しない仕入割戻しについては、その仕入割戻しの金額の通知を受けた日の属する事業年度において計上しなければならない。

2.《一定期間支払いを受けない仕入割戻しの計上時期》・・・右記2.《一定期間支払わない売上割戻しの計上時期・・・発生要件の不適用事由》に対応
仕入割戻しの金額について、契約等によって、「特約店契約の解約」、「災害等特別の事実の発生するまで」、または、「5年を超える一定期間」支払われないで、保証金等として相手方が預かることとしているため、その期間中は、実質的に利益の全部または一部を実質的に享受できない状態であるときは、1の適用要件にかかわらず、実際に支払(買掛金等の支払に充当されたものを含む)を受けた日の属する事業年度の益金の額に算入する。実際の支払を受ける前に、実質的に利益を享受することとなった場合には、その享受することになった日を含む事業年で計上しなければならない。

3.計上しなかった仕入割戻しの処理
法人が、仕入割戻しの金額について、上記1または2によって計上しなかった場合は、それぞれ事業年度の益金に算入することになる。

一定期間に多量又は多額の取引をした取引先に対する売上代金の返戻(へんれい)を言い、企業会計上は、当期の売上高から控除するか、または、営業損失として経理することとされている。この経理処理については税法上も認められているが、その「計上時期」については、以下の事項に注意しなければならない。
1.《発生基準の適用要件》
(1)算定基準が、「販売価額」または「販売数量」に基づいており、予めその算定基準が相手方に示されている売上割戻しについては、その割戻しの対象となる商品等を販売した日を含む事業年度において計上することを原則とする(ただし、継続適用することを条件として、割戻しの金額を相手方に通知した日又は実際に支払った日を含む事業年度に計上することが認められる)。
(2)上記(1)に該当しない売上割戻しについては、その売上割戻しの金額を通知した日または支払った日の属する事業年年度において計上することを原則とする(ただし、期末までに販売した商品等について、売上割戻しを行うこと及びその計算基準が、会社内部において「割戻し要領」等として決定されている場合は、その基準によって計算した金額を、法人税の申告期限までに相手方に通知することを条件として、当期の未払金に計上することができる)。2.《一定期間支払わない売上割戻しの計上時期・・・発生要件の不適用事由》
相手方との契約等によって、「特約店契約の解約」、「災害等特別の事実の発生するまで」、または、「5年を超える一定期間」支払わないで相手方名義の保証金等として預かることとしているため、相手方がその利益の全部または一部を実質的に享受できない状態であるときは、1の適用要件にかかわらず、その売上割戻しの金額を実際に支払うまでは、損金の額に算入しない。ただし、次のような場合は、相手方が実質的に利益を享受していると認められるため、この取り扱いは適用しない(損金計上認める)。
《発生要件の不適用事由》
(1)契約等に基づいて、」その売上割戻しの金額に通常の金利を付けるとともに、その金利を現実に支払っているか、または請求に応じて支払うこととしている。
(2)契約等に基づいて、保証金等に代え、有価証券その他の財産の提供ができるようになっている。
(3)保証金等として預かっている金額が、売上割戻しの金額の概ね50%以下であること。
(4)契約等に基づいて、売上割戻しの金額を相手方名義の預金等として保管していること。
※なお、上記の損金の額に算入されない売上割戻しについて、その預かっている期間中にこれらの事実が生じたときは、その生じた日を含む事業年度の損金の額に算入することになる。

(表1)で注意すべきは、「仕入割戻し」の経理処理は、相手方との契約等による「売上割戻し処理」の内容に影響を受けると言うことじゃ。また、契約等の内容をしっかりと把握することはもとより、一旦適用した計上時期や、「仕入高から控除」若しくは「雑益に計上」という経理処理の方法については継続性が問われる>ことに注意しなければならない。

2、架空仕入れの有無

税務調査においては、決算期末で「買掛金」として処理されているものにつき、実際に支払われているかどうかもチェック項目の一つとなる。これは取引の実在性を見るためじゃ。日常的な経理業務はもちろん、決算期の重要な手続きの一つとして、「二重計上の有無」、「毎期継続して発生する取引について、実際には取引が生じていないにもかかわらず計上しているものはないか」、などについて十分な検証が必要じゃ。

このようなケースは、社内体制の不備などで生じることが多い。人員不足等で社内体制に不備があるようなら、税理士の定期訪問を活用するなど、客観性の高い事務検証を確保できるよう、体制を整備することが必要じゃ。

3、収益・費用対応の原則に従っているか

税法上は、費用又は損失の計上時期について発生主義を採っていることは、今シリーズの中でも折に触れ説明してきたところじゃが、「売上原価等」については、当期の収益との「個別対応」により、また、販売費、一般管理費その他の費用については、「期間対応」によりそれぞれ損金の額に算入すべきものとされているので留意すること。

これにより、原価については、収益に対応するもののみ損金の額に算入されることになり(法人税法第22条第3項)、製造業などの仕掛品が計上される会社については、外注費等の計上が、それに対応する売上と整合しているかがチェックされることになる。売上が翌期に計上されるものであれば、その外注費等はその期の製造原価としては損金算入が認められないため、仕掛品または前払金等の資産勘定で処理しなければならない点に注意が必要じゃ。

4、決算期末仕入の適正性

決算期末直前に仕入れたものについては、仕入勘定に計上したにもかかわらず、商品等の到着が遅れるなど、何らかの事情で期末棚卸高に反映されていないケースも見られる。こうなると、売上原価の過大計上による利益の過少申告につながるため、このあたりが税務調査上の着眼点となる。日常的にも重要な事項ではあるが、特に、期末においては、入念に処理内容を検証しなければならない。

5、まとめ

売上や仕入れに関する調査ポイントは、ほぼ決算期のものに集中すると言って良い。仕入割戻しなどは、一般的には期末一括や、半期ごとなど、支払われる時期が特定されていることが多いため、支払を受ける都度、相手方との契約書に基づく内容となっているかを確認することも重要じゃ。顧問税理士がいれば、契約書等の写しを渡しておくことで、適時にチェックしてもらえるので安心じゃ。顧問税理士がいないようなら、一度、税理士紹介業者に相談してみると良い。

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