税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第18回《未払金・未払費用等》

目次

今回から、決算期の処理が問題となる勘定科目を中心に解説を進めようと思う。まずは、税務調査で必ずチェックされる「未払金及び未払費用」についてじゃ。この科目は、利益操作につながるため、会計監査人監査でもしつこく見られるところじゃから、会計監査を受ける会社なら、かなり意識しているはずじゃ。対象となる費目別に注意事項をみていこう。

1、修繕費等

決算期末の未払金の中に会社資産の修繕費が計上されている場合、調査官は、真っ先に修繕工事の終了時期を確認する。修繕費用が税務上の損金となるのは、工事の終了時点であるため、工事期間中のものがないかを中心に調査するのじゃ。この調査では、工事業者に依頼して請求書を発行してもらい、あたかも債務が確定したかのようにみせかけて未払金に計上する、などという手口を使っていないかが疑われる。

これは、上手くいきそうな手口に思えるかもしれんが、税務署は、請求書の発行会社に「反面調査」を行って裏付けをとるのが常じゃ。反面調査では、請求書発行会社の作業日誌やその工事に係る費用等の受払いまで丹念に調べられるため、すぐにばれてしまうのじゃ。

また、このような手口は消耗品の支払いなどでもよく見られる。当期の利益が多く出ることが分かった時点で、パソコンやその他の事務機器等をまとめて購入することがあるが、実際の納品が翌期に入ることがわかっていて、請求書を発行してもらって未払金計上するというケースが多い。これも、修繕費同様、簡単にばれる。

問題は、このような処理がばれたときの処分じゃ。このような処理は「仮装・隠ぺい」による「悪質」な行為とみなされて、「重加算税」が課される可能性がある。重加算税は、犯罪のにおいがする行為とみなされた証しで、その後の相当期間にわたって国税当局に監視されることになるので要注意じゃ。

2、人件費

人件費で未払いが計上されるのは、締め日以後期末までの給与分と、翌期に支払う従業員に対する賞与のうち当期に属する分、それと退職給与引当金じゃ。この内、給与の締め日以後期末までの確定分については税務上の問題はない(損金算入できる)が、賞与の場合は、取り扱いが異なるので注意が必要じゃ。

決算期の賞与に関する会計処理は以下の通りとなり、会計上の処理と税務上の取扱いが異なる点に注目してほしい。なお、退職給与引当金については全額損金不算入となるので留意しておくこと。

(表1)従業員に係る未払人件費の取扱い

《設例》
前提:事業年度は4月~3月で、賞与は、毎年5月末と11月末の査定を以て、毎年6月末と12月末に支給する。
《問題となる処理》
決算期に問題となるのは6月支給の賞与で、会計上は、12月~3月までの4カ月相当分について
「賞与引当金」という勘定科目で費用化する。
会計上の処理 税務上の取扱いと調査ポイント
賞与総額が120万円の場合、3月末の会計上の債務は80万円であり、「賞与引当金」に80万円を計上して当年度の人件費に加える。

※賞与引当金
(120万円÷6)×4(12/1~3/31)=80万円
※社内で職務権限に基づく機関決定がなされていることが要件。

なお、法人税の申告上は、この金額を損金に算入することができないため、税務調整により当年度の課税所得に加算することになる。

税務上は、損金として認められないため、法人税の申告上、課税所得に加算されているかがチェックされる。

会計上は、事業計画との乖離がなく、機関決定されていれば問題はないが、税務上は「債務の確定にはいたっていない」との立場であり、実際に支払われていない(現金主義)ため、損金算入が否認されることになる。

《未払賞与の計上が認められる場合》
なお、税務上、実際の支払い前であっても、賞与の未払金を損金計上できる場合もあるが、そのためには、次の要件を満たさなければならないのじゃ。

1、労働協約または就業規則による支給予定日が到来している賞与について、使用人にその支給額を通知している場合(その支給予定日と通知日のいずれか遅い日の属する事業年度の損金に算入)。
2、同時期に賞与の支給を受けるすべての使用人に対して、各人別にその支給額を通知し、かつ、その通知日の属する事業年度の翌期首から1月以内にこれを全て支払っている場合(その通知日の属する年度)。

以上のように、人件費のうち未払賞与を損金に算入するためには、かなり高いハードルを越えなければならない。これは、人件費が、会社の経費の中で最も大きなウエイトを占めることと、税制があくまでも確定債務についてしか損金算入を認めないとの立場にあるからなのじゃ。いずれにしても、期末には、給与と賞与の取扱いについて、税理士に相談しておくことが肝要じゃ。

3、賃借料等

土地や建物の賃借料の未払いがある場合、調査官は賃貸借契約書の各条項を確認し、未払計上した額の適正性をチェックする。チェックポイントは、「短期前払費用(注1)」となるか否かじゃ。例えば、3月末が決算の会社が、毎年3月末に翌期の賃借料を1年分支払うと言う契約内容で、実際に毎年支払っていれば、「短期前払費用」として損金算入が可能じゃ。しかし、支払が翌期に回った場合は、その費用を未払費用として損金に算入することはできない。また、これは、保険料についても同様の扱いとなるので注意が必要じゃ。

(注1)短期前払費用
前払費用の額で、その支払った日から1年以内に提供を受ける役務に係るものを支払った場合、その支払った額に相当する金額を継続してその支払った日の属する事業年度の損金の額に算入しているときは、その支払時点で損金の額に算入することが認められる。

4、租税公課

税金の未払計上がある場合、納税通知書等により、その事業年度の損金となるか否かについてチェックされる。固定資産税などは、毎年1月1日現在で所有する固定資産に課税するものじゃが、実際の納税通知は4月に送付される。3月決算の会社が、4月に送付された納税通知書をもって未払計上するケースが見受けられるが、法人税における所得の計算においては、通知が送付された月の属する事業年度の損金として計上することになることに注意が必要じゃ。

これは、同じく固定資産を対象とした「不動産取得税」についても言えることじゃ。不動産取得税なんぞは、「忘れたころにやってくる」と揶揄されるほど、実際の取得日からかけ離れた日(取得後6カ月後程度)に通知が届くのが常じゃ。取得日の関係で、翌期に納税通知が届くことが多いため、企業会計の原則を遵守している経理担当にすれば、許しがたい税金に見える。

できれば、県税事務所で税額を確認して未払計上したいと考えるのは人情というものじゃが、これは許されない。あくまでも、納税通知が届いた月の属する事業年度の損金となるので注意しよう。なお、税金等の損金算入時期については以下のとおりなので頭の片隅に置いておくと良い。

(表2)租税公課の損金算入時期

納税区分 対象となる税金 損金算入できる時期
申告納税方式 事業税、事業所税等 申告書の提出された日の属する事業年度
賦課決定方式 固定資産税、不動産取得税 賦課決定(通知)のあった日の属する事業年度
その他 利子税、延滞税(注2) 納付した日の属する事業年度

(注2)延滞税で損金算入できるものは、地方税の納期限の延長にかかる延滞金のみで、罰金系の税金は損金とはならない。罰金系の税金とは、通常の「延滞税」、「加算税」、「重加算税」、「過怠税」などを言う。

5、まとめ

このように、債務の確定を損金算入の要件とするかぎりは、会計上の取扱いと税務上の取扱いは永久に一致することはないのじゃ。企業会計は、たとえ税務上の損金とはならなくとも、合理的な「見積もり」によって、内在する債務や近い将来のリスク要因を費用として認識しなければならないという点で、非常にシビアな世界だと言える。いずれにしても、年度末の未払計上にあたっては、決算事務の進行中に税理士に相談し、適切な処理をしておくことが肝要じゃ。

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