税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第17回《消費税-その3》

目次

今回は、消費税の最終回として、課税事業者・免税事業者及び簡易課税制度ならびに税務調査対応について解説する。

1、消費税の課税事業者と免税事業者

消費税は、全ての事業者が申告をしなければならないわけではないのじゃ。確定申告をして消費税を納税しなければならない事業者を「消費税の課税事業者」と言い、消費税の申告義務のない事業者を「免税事業者」と言うのじゃ。この扱いについては、以下のようになっておる。

(表1)消費税に係る事業者の扱い

取扱区分 内容
原則論 〇消費税の課税事業者となるか否かを判断するために「基準期間」というのが設けられておる。基準期間とは、その事業年度の前々期を言い、その期の課税売上高が1,000万円を超えていれば、その会社は、その期から課税事業者となるのじゃ。

〇2013年1月1日以降に開始した事業年度より、基準期間の売上高が1,000万円以下であっても、その期の前期の上半期(特定期間という)の課税売上高が1,000万円を超えた場合は、その期より課税事業者となる。

課税事業者の選択 原則論で言う「課税事業者」に該当しない事業者であっても、税務署長に届け出ることによって、その翌事業年度から課税事業者になることができるが、この場合、2年間は免税事業者戻れないので注意が必要じゃ。
新設された法人の扱い 新設法人は、基準期間(前々期)がないため、基本的には免税事業者となるが、以下の例外がある。

  1. 資本金が1,000万円以上の会社
  2. 資本金が1,000万円未満であっても、その会社の株式の50%超を保有する一定の支配株主が存在する「特定新規設立法人」は、基準期間がない第1期及び第2期について、消費税の免税事業者とはなり得ず、消費税の申告義務があるので注意が必要じゃ。

2、簡易課税制度

課税売上高が5,000万円以下の会社については、消費税の納付税額の計算が簡便な制度を選択することができる。この「簡易課税制度」とは、消費税の納付税額を計算するときに、原則法にかえて「みなし仕入率」というのを売上高の消費税に乗ずることで仕入れに係る消費税を計算することができる制度なのじゃ。

消費税シリーズの2回目で説明した、「個別対応方式」と比べると、その簡便さがわかるが、中小事業者の年間の仮払消費税額のデータ管理や計算の手間を省いて事務負担を軽減するのが目的じゃ。

しかし、この簡易課税制度には、以下のように、メリットもあればデメリットもあるので留意が必要じゃ。
(表2)簡易課税制度のメリット・デメリット

メリット デメリット
  1. 年間を通して仕入等にかかった消費税額(仮払消費税)を管理・計算する手間を省くことができる。
  2. 原則法(個別対応方式等)に基づいて計算した仮払消費税額が、簡易課税制度に基づくみなし仕入率を使用した結果より少ない場合は、簡易課税制度を選択したほうが消費税負担額は少なくなる。ただし、この場合は、その差額を法人税法上の益金に算入しなければならない。逆の場合は損金算入となる。
  1. 原則法においては、仮受消費税額から仮払消費税額を控除して納付額を計算するが、この控除後の金額がマイナスになった場合は、仮払消費税のほうが多かったということになり、申告することによって消費税の還付を受けることができる。しかし、簡易課税制度を選択していると、課税売上高に「みなし仕入率」を乗じて仮払消費税を計算するため、消費税の還付自体が発生しないことになるのじゃ。このため、もし、実際に仮払消費税のほうが多くとも、還付が受けられず、本来支払わなくてもいい消費税を支払わなければならないというデメリットにつながるのじゃ。
  2. 簡易課税制度を選択した場合は、事業を廃止する以外は、2年間継続してこの制度に基づく計算をしなければならない。

3、みなし仕入率

簡易課税制度における「みなし仕入率」についても見ておこう。業種によってみなし仕入率は異なり、以下の通りとなっておる。

(表3)みなし仕入率を使用した仮払消費税の計算方法

業種区分 計算方法
第1種事業(卸売業) 課税売上高×10%-(課税売上高×10%×90%
第2種事業(小売業) 課税売上高×10%-(課税売上高×10%×80%
第3種事業(農・林業、建設業、製造業) 課税売上高×10%-(課税売上高×10%×70%
第4種事業(飲食店業) 課税売上高×10%-(課税売上高×10%×60%
第5種事業(金融・保険業) 課税売上高×10%-(課税売上高×10%×50%
第6種事業(不動産業) 課税売上高×10%-(課税売上高×10%×40%

4、税務調査と対応について

ここまで、消費税の仕組みや制度及び用語の説明を中心に解説してきたが、いよいよメインの「税務調査対応」じゃ。ここからは、税理士に相談したり、定期的に検証してもらったりという部分が見えてくるので、注意して読み進めてほしい。まず、消費税に関する税務調査とは、どのようなことを調べられるかについて整理しておこう。チェック項目は以下の通りじゃ。

消費税の税務調査におけるチェック項目

  1. 仮受消費税及び仮払消費税のデータ管理が適切になされ、申告に反映されているか。
  2. 会計取引の仕訳にあたり、課税区分(課税、非課税、不課税等)の判断が正しく行われているか。
  3. 帳簿類、請求書等が整備されるとともに、仕入税額控除の要件を満たしているか。
  4. 仕入税額控除の計算は正しく行われているか(簡易課税制度を選択している場合は、「みなし仕入率」が業種区分に適合しているか)。

以下、のチェック項目について、調査ポイントと整備すべき資料について解説する。

4-1、仮受消費税・仮払消費税の管理

消費税の管理において、税抜処理を選択している場合、仮受消費税と仮払消費税の集計が、総勘定元帳等の帳簿類と整合しているかがチェックされる。このため、消費税データに絡む帳簿類、消費税の管理資料、請求書、領収書等の証憑書類を整備しておく必要がある。これら書類の整備をはじめ、消費税データについては、定期的に税理士のチェックを受けておくほうが良い。

4-2、課税区分の判断

調査では、請求書や領収書の内容から、取引の実態、対価性の有無から課税区分(特に、非課税取引か否か)の妥当性についてチェックを受けることになる。消費税データの資料から、税率に異常値が見える場合などは、このシリーズ第16回で解説した「振替処理」の適切性なども検証される場合があるので、経理処理の中身についても税理士による定期的なチェックがあると安心じゃ。

4-3、帳簿類・請求書等が仕入税額控除の要件を満たしているか

仕入税額控除を受けるには、帳簿及び請求書等を保存していなければならないが、これらの帳簿等に記載すべき事項が決められているので、これらについても、日常的にセルフチェックするとともに、定期的な税理士チェックを受けるよう心掛けておくことが必要じゃ。法定記載事項等は以下の通りじゃ。

(表5)帳簿類等への法的記載事項

書類区分 要記載事項
帳簿 〇帳簿の種類:現金出納帳、預金受払い帳票、仕入帳、売上帳、経費帳、総勘定元帳、仕訳帳(これらのほとんどは、会計ソフトの出力帳票を利用できる)。
《帳簿への要記載事項》

  • 課税仕入れの相手方の名称
  • 課税仕入れの年月日
  • 課税仕入れの内容
  • 課税仕入れの金額
請求書等 〇請求書等の種類:請求書、納品書、領収書などで以下の5項目が記載されているものをいう。

  • 書類の作成者の氏名
  • 課税仕入れの年月日
  • 課税仕入れの内容
  • 課税仕入れの金額
  • 書類の交付を受ける事業者の名称(ただし、小売業、飲食店業、旅行業など不特定多数の者の場合は省略することが可能で、「上様」表記の領収書でも可。)

4-4、仕入税額控除の計算は正しく行われているか

このシリーズ第16回の(表1)仕入税額控除の計算方法、又は、簡易課税制度を選択している場合は、今回(第17回)の(表3) みなし仕入率を使用した仮払消費税の計算方法にしたがって正しく計算されているかがチェックされるので、これも定期的に検証しておくことが必要じゃ。

5、まとめ

第15回から3回にわたって消費税の解説をしてきたが、理解は進んだじゃろうか? 1989年に初めて消費税が導入されたときに担当していた人は、かなり勉強もし、経理の仕方にも意を払ったものじゃが、その後は税率が変更になるぐらいのもので、ほとんどの企業では、新しく経理担当となった者に対して、正確な知識を習得させるための研修も行われていないのが実情じゃ。

今後は、軽減税率のこともあって、管理がますます複雑になるため、税理士の必要性が高まってくる。消費税というのは会社の損益や決算そのものにかなり大きな影響を及ぼす要素じゃが、その割に、深刻に考える経営者が少ないことに驚きを覚える。現在、顧問契約を締結していない、又は税理士との接点すらないと言う会社は、早めに紹介サイト等で税理士を確保しておくことをお奨めして、消費税シリーズを終えることにしよう。

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