税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第12回《寄付金》

目次

今回は、寄附金の取扱いについて解説しよう。「寄附なんかしたことないから関係ない」を思う社長や経理担当者もいるかもしれないが、費用の支出名目ではなく、税法上の取り扱いがどうなるかの話しなので、理解を願いたい。なお、大前提として、「寄附金」は損金不算入科目だが、要件を満たすものは損金の額に算入できるということを認識しておくことが重要じゃ。

1、寄附金の捉え方

寄附金というのは、事業には直接関係がなく、対価なしに他人に対して資産や経済的利益を与えることを言うのじゃ。但し、同じ無償の贈与であっても、取引先等に対する接待・慰安等を目的とするものは交際費(本シリーズ第2回を参照)となるし、不特定多数に対する宣伝広告を目的とする支出は宣伝広告費となる点に注意じゃ。

寄附金とは、具体的には、国や市町村、赤い羽根共同募金、政治家のパーティ参加費、大学の研究機関や学校法人に対するお金や物の寄贈が該当する。

2、損金算入の制限

寄附金は、法人税の計算上損金の額に算入できるものが制限されているので、税理士に相談して適正な会計処理をしておかないと、税務調査で追徴課税されるので注意が必要じゃ。国や地方公共団体、公益法人などに対する公共性の高い寄付金は、その全額が損金の額に算入できるが、神社・寺、政治家などに対する私的性格の強いものは制限を受けることになる。

2-1、経済的利益の供与に注意

事業関係の取引先に対する経済的利益の供与であっても、交際費ではなく寄附金と認定される場合がある。合理的な理由がなく、取引先などへの無利息でのお金の貸付けや、売掛金を免除するなどの行為は、本来受け取ることのできる利息や、債権の放棄に相当する金額が寄附金とされて、損金不算入となるので、要注意じゃ。

安易にこのような措置をとることがないよう気を付けなければならないが、無利息貸付や債権放棄をしたとしても、取引先の倒産を防止するための措置として行っている場合や、債権放棄をしないと、それ以上の損失を被ることが想定されるなど、その措置をとることに合理的な理由がある場合は、寄附金とはならない場合がある。

このように、税務上の判断が難しい場合は、事前に税理士に相談するのも良いし、税理士とともに税務署へ相談に行き、その相談記録を残しておくことも検討すると良い。相談結果と相談の日時、相談に応じた税務署の担当者名を記録しておけば、税務調査時の疎明資料の一つとなるからじゃ。

なお、税務署への相談の結果、寄附金とはならない場合でも、そのための条件がいくつも提示されるため、その条件に適合するような証拠資料を残しておかなければならない。たとえば、以下のような資料じゃ。
(表1)税務調査を念頭に整備しておく資料

整備する資料 備 考
金銭消費貸借証書 資金を貸し付ける際には、正式に金銭消費貸借契約を締結しておかなければならない(収入印紙の貼付も忘れずに)。
相手の過去5年程度の決算書 債権を有する先の経営状況を把握することは当然なので、たえず直近の決算書を徴求して5年分程度は整備しておく必要がある。
相手先との折衝記録と収集した資料 売掛金の請求書、回収が遅れ始めた時からの催告通知、相手先との折衝記録(年月日・時分・折衝相手氏名・内容等)、折衝を通じて収集した相手先の情報(徴求した帳票及び文書類の写しなどを含む)を整備しておく。

このように、無利息貸付や債権放棄に至った経緯まで含めた資料を整備しておくことで、税務調査に、この措置が合理的な判断であったことを証明する大きな材料となるのじゃ。

2-2、資産の譲渡・買入

資産の売却や買取りの場合も注意が必要じゃ。時価より低い価額での売却や、逆に高い価額での買入は、相手方(取引先に限らず会社役員を含む)に対する利益供与とみなされて、時価と実際の取引価額との差額について、寄附金とされる場合があるのじゃ。正常な取引と税務上問題となる取引の違いを示すと(表2)のようになる。

(表2)低額譲渡・高額買入の例示

低額譲渡 本来のあるべき取引 税務上問題となる取引
帳簿価額10万円、時価100万円の土地を時価と同じ100万円で譲渡したときの仕訳
【借 方】
現預金 100万円
【貸 方】
土 地 10万円
固定資産売却益 90万円
帳簿価額10万円、時価100万円の土地を60万円で譲渡したときの仕訳(税務上の仕訳)
【借 方】
現預金 100万円
寄附金 40万円
【貸 方】
土地 10万円
固定資産売却益 90万円
現預金 40万円
〔解説と注意事項〕
上記の税務上問題となる取引については、適正価額での取引として一旦仕訳し、実際の譲渡価額との差額を寄附金として相手に支払ったという仕訳をすることになる。なお、このときの相手先が役員の場合は、寄附金は役員賞与となって損金不算入となるため、税務上は、固定資産売却益は90万円のまま課税所得となり、役員賞与を認定された40万円は課税所得に加算されるため、本来のあるべき取引を行った時よりも税額が高くなることになる。加えて、役員のほうも、賞与とされた部分は所得税が課税されるので、会社も役員もまさに踏んだり蹴ったりの散々な目に遭うことになるのじゃ。
高額買入 〇時価100万円の品を130万円で購入したケース
【借 方】
仕入 100
寄附金(役員賞与) 30
【貸 方】

現預金 100

現預金 30

時価と買入価格の差額である30万円は、寄附金(役員賞与)として損金不算入となる。また、仕入処理した金額についても損金算入できないことに加え、役員についても所得税が課税されるのは低額譲渡と同様じゃ。

よくあるケースは、同族企業における関係者間の不動産取引で、税務調査では、類似の不動産取引実例と対比するなど、入念に調べられる。損を出して当該事業年度の課税所得を減らすような悪質性を疑われると、その取引に至るまでの決裁プロセスを含め、相当深く追及されるので、どうしても通常的でない取引(低額譲渡や高額買入)が必要であったということを合理的に説明できるようにしておかなければならないのじゃ。そのためには、事前に税理士に相談し、必要な措置を講じて、関係資料を整備しておくことじゃ。

3、まとめ

税務上の「寄附金」の概念については理解できたじゃろうか?企業会計と税務会計の違いとともに、個々の取引のあり方にも配意しなければならないというのは面倒なことではあるが、税務調査を受けて、過去に遡って修正申告をさせられることを考えれば、日々の一つ一つの会計処理を適切に行っていく方が良いに決まっておる。適切な処理を心がける時に強い味方となるのが税理士じゃ。顧問税理士がいればベストじゃが、たとえ顧問契約がなくても、常に相談できる税理士を確保しておくことは、会社の経営面からして重要な要素と言える。

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