税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第11回《繰延資産》

目次

さて、今回は繰延資産について解説しよう。普段の経理処理ではそう頻繁に登場するような勘定科目ではないが、税務上の重要性は高いのでアウトラインぐらいはつかんでおきたい。性格的には、減価償却資産と似ているので、考え方は参考になるが混同しないように注意しよう。

1、繰延資産とは

会社が支出した費用のうち、その支出の効果が支出以後1年以上に及ぶもので、一定の要件に合致するものは、減価償却資産同様、定められた期間にわたって費用配分(償却)しなければならないのじゃ。これが繰延資産であり、会社創立費や開業費など会社法で定められたもののほか、法人税法で規定されたものもあるのじゃ。

2、建物を賃貸借契約によって借りる場合の権利金等の取扱い

事務所や倉庫、店舗などを賃借する際に賃貸借契約を締結するが、一般的には、契約時に「礼金」や「保証金」といった名目の多額の費用が発生する。税務調査では、賃貸借契約書をもとに、これら費用の処理が適切に行われているかを調べられるのじゃ。なお、礼金は権利金とも称され、契約期間が終了しても返還されないという共通点はあるが、厳密に言えば異なるものじゃ、しかし、ここでは、無用な混乱を避けるため、同様の扱いとするので留意してほしい。

2-1、礼金(権利金)

礼金は、法律に基づく権利義務に関わるものではなく、不動産取引の慣習として、建物の賃貸借契約締結時に月額賃料の1か月分~2カ月分程度の額を支払うという性格のものじゃ。当然、契約書に金額が明記されておるのじゃが、保証金と違い、一旦支払うと契約終了後も返還されないため、経理上は支出した事業年度の費用として処理しがちじゃ。

しかし、法人税法では、資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用で支出の効果が1年以上に及ぶものは、繰延資産の一つとして規定されており、礼金はこの要件に該当する。このため、礼金は単年度での費用処理はできず、所定の期間で償却しなければならないのじゃ。なお、この場合、法人税法施行令第134条により、20万円未満の繰延資産については、当該の事業年度において全額損金算入が認められるので、憶えておくと良い。

2-2、保証金(敷金)

保証金は、家賃の滞納や退去の際の原状回復費用の担保を目的に、貸主が借主から預かる性質のもので、解約時に返還されるのが原則じゃ。地域や不動産業者によっては敷金と呼ぶ場合もある。契約によっては、一定の金額を変換しない旨定めているものもあり、返還されない金額を単年度費用として処理してしまうことがあるが、保証金のうち返還されない部分は、礼金と同様、「資産を賃借し又は使用するために支出する権利金、立退料その他の費用」に該当することとなり、繰延資産に計上して所定の期間で償却しなければならないのじゃ。

2-3、更新料

契約更新の際に支払う更新料についても、支払うことによって今後の建物賃借を継続できるという効果があるため、繰延資産の要件に該当し、所定期間での償却が必要じゃ。

2-4、権利金等の償却期間

これら権利金等を繰延資産に計上した際の償却期間は以下のとおりじゃ。
(表1)建物賃借に係る繰延資産の償却期間

繰延資産となる費用の範囲 償却期間
ア.賃借建物の新築の際に支払った権利金等で、その額が建築費の大部分を占め、建物の存続期間中賃借できるもの その建物の耐用年数の10分の7相当年数
イ.ア以外の権利金等で、契約や慣習等により、退去明け渡しの際、借家権として転売できるもの その建物の賃借後の見積耐用年数の10分の7相当年数
ウ.その他のもの 5年(賃借期間が5年未満で、契約更新時に再び権利金等の支払いを要するものは、その賃借期間)

2-5、公共的施設等の負担金

その法人が便益を受ける公共的施設の設置又は改良のために支出する費用で、支出の効果がその支出の日以後1年以上に及ぶものは繰延資産となる。具体的には、以下のものが該当する。
(表2)便益を受ける公共的施設に係る費用

繰延資産となる費用の範囲
ア.自己の必要に基づいて行う道路、堤防、護岸、その他の施設又は工作物などの公共的施設の設置又は改良のために要する費用
イ.自己が利用する公共的施設の設置や改良を国や地方公共団体が行う場合におけるその設置又は改良に要する費用の一部の負担金
ウ.自己の所有する道路や工作物を国や地方公共団体に提供した場合のその道路その他の施設又は工作物の価額に相当する金額
エ.国や地方公共団体の行う公共的施設の設置等により著しく利益を受ける場合のその設置等に要する費用の一部の負担金。ただし、公共的施設の設置等により土地の価格が上昇したことによって、土地所有者又は借地権者である法人が国や地方公共団体に納付するものは、土地などの取得価額に算入することになる。
オ.鉄道業以外の事業を営む法人が、鉄道業を営む法人の行う鉄道の建設に当たり支出する、その施設に連絡する地下道などの建設に要する費用の一部の負担金

《公共的施設の負担金の償却期間》
(1)公共的施設の費用を負担した法人が、専らその施設を使用する場合は、その施設の耐用年数の10分の7に相当する年数。
(2)(1)以外の場合は、その施設の耐用年数の10分の4に相当する年数。

2-6、公共施設以外の負担金等

商店街等に関する費用負担や、所属する協会等団体の会館等の建設費用を負担した場合についても、共同的施設の設置又は改良のために支出する費用として、繰延資産に計上して償却しなければならないのじゃ。注意すべきは、このような支出は自社の資産になるわけではないので、どうしても支出した年度の費用として処理してしまうことが多いことじゃ。

(表3)便益を受ける共同的施設に係る費用と償却期間

繰延資産となる費用の範囲 償却期間
ア. 負担する者が利用する場合 その施設の耐用年数の10分の7(土地の場合は45年)
イ.その協会等の本来的な使用目的に供する場合 同上(ただし、10年が上限)
ウ.アーケード等、一般の人も利用する場合 5年と、その施設の耐用年数のいずれか短いほうを採用

3、役務の提供を受けるための費用

法人税法において、「役務の提供を受けるために支出する権利金その他の費用で効果が1年以上に及ぶもの」も、繰延資産として規定していて、具体的には次のようなケースが考えられる。

(表4)役務の提供として繰延資産に該当するもの

繰延資産となる費用の範囲 ア.チェーン店への加盟一時金
端的な例がコンビニじゃ。フランチャイズ契約として、本部と加盟者が契約を締結し、本部から「経営指導」を受け、「仕入」、「宣伝広告」を本部が一括して行うようなケースじゃ。「加盟金」とは、「フランチャイズへの加盟時に支払うお金」のことで、本部のブランドを使うための言わば「使用料」と言える。加盟時に一度支払うものなので、加盟店にとっては「初期費用」と言えるものじゃが、契約を解除しても基本的に返金されない性格のお金じゃ。この加盟金も、契約期間が1年以上となるものは繰延資産に該当する
イ. ノウハウの使用契約に際し、支払一時金
製造業などで、他社の生産技術に関するノウハウを使用するための契約を締結して一時金を払った場合、契約期間が1年以上であれば、「役務の提供を受けるために支出する権利金その他費用」で支出の効果が1年以上に及ぶものとして、繰延資産に該当する。
償却期間 5年(契約の有効期間が5年未満で、契約更新時に再び頭均等の支払いを要するものは、その有効期限。

4、繰延資産の範囲(まとめにかえて)

今回は、まとめにかえて、繰延資産の範囲を、会社法によって規定されるものと税法上のものに整理しておこう。なお、減価償却資産のところでも説明したが、多年度にわたって影響のある費用は、その後の事業年度に影響を与える為、過去に遡って申告書を修正すると、その後の申告書も全て修正が必要になるため、かなり厄介な作業となる。このような事態を招かないようにするため、税務上の取扱いに懸念があるような費目については、税理士に相談してから処理すると良い。

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