税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第22回《棚卸資産》

目次

今回は、費用科目ではなく資産に目を向けてみようと思う。中でも「棚卸資産」は、期末における評価が絡んで税務調査の対象となるので、その取扱いについて解説する。

「棚卸資産」は、「売上(売掛金)等」→「回収(現金化)」→「利益」→「仕入(再投資)」という営業活動サイクルの中で、最終的に「利益」を生み出すものじゃ。基本的には商品の「在庫」として捉えれば良いのじゃが、在庫は滞留期間が長くなると価値の低下につながるため、その管理とともに、資産価値を示す評価も重要となる。

1、棚卸とは

棚卸は、商品や製品、仕掛品(しかかりひん)などの在庫、消耗品で未使用のものの有高を調べることをいい、前期繰越分と当期の仕入高の合計から、棚卸で確認した期末在庫高を差引いて、当期の売上げに対する原価を求めて利益を確定させることになるので、会社にとって重要な手続きの一つじゃ。

期中は、帳簿上の棚卸高で在庫管理を行うことが多いが、月次で実地棚卸をして帳簿残高との相違を確認している業種も多い。仕入・値入⇒在庫⇒売上⇒代金回収⇒仕入といった営業循環の中で、汚損・破損や盗難などが発生すると、いわゆる「棚卸減耗(たなおろしげんもう)」が生じて価値が減少するため、帳簿残高を適時修正する必要があるためじゃ。また、棚卸には、商品の回転率を調べることで適正な在庫基準を見極める機能もあり、経営管理面で重要な役割を果たしているのじゃ。

「消耗品で未使用のもの」とは、シリーズ第18回目の「未払金・未払費用」のところでも触れたが、一度に1年度分など大量に購入することの多い事務用品等については、当該年度で使用しなかった分は前払費用として当期の費用から除外しなければならないため、実数を把握しなければならないのじゃ。

2、棚卸資産の評価方法

棚卸には、下記の通りいくつもの評価方法が定められているが、どの方法で評価するかは、予め税務署に届け出る必要があるのじゃ。

(表1)棚卸品の評価方法

評価方法 特  徴
原価法 個別法 全ての棚卸資産について、それぞれの取得価額をもって計算する方法。
先入先出法 先に仕入れたものから先に売却したとして原価を計算する方法。
総平均法 全棚卸品の取得価額をその数量で除して原価を計算する方法。
移動平均法 仕入の都度、それまでの仕入残高と仕入金額の合計を、残高数量と仕入数量の合計で除して原価を計算する方法。
最終仕入原価法 期末に最も近い仕入単価を、その在庫の原価とする方法。
売価還元法 売価に一定の原価率を乗じて在庫の原価とする方法。
低価法 原価法で求めた評価額と、期末時点の時価を比較し、低い価額を原価とする方法。

このように、いくつもある中から評価方法を届け出ておかなければならないが、税務調査で、評価方法を届け出ていない、又は、届出と異なる評価方法で計算していることが判明したときは、最終仕入原価法が適用されることになる。なお、税務署へ評価方法を変更するための「棚卸資産の特別な評価方法の承認申請書」を提出し、承認を得れば評価方法を変更することができるが、一度選択した評価方法は継続して適用するのが原則だということに注意が必要じゃ。

3、実地棚卸と売上原価の計算

商品ごとの粗利益を計算する際、売上原価を確定しなければならない。売上原価とは、売上高に対する仕入原価であり、次の計算式で算出する。

売上原価=期首棚卸高+当期仕入高-期末棚卸高

この売上原価を確定するためには、期中に仕入れた商品の取得価額(当期仕入高)と「期末棚卸資産の評価(期末棚卸高)」が必要となる。そして、この場合の期末棚卸高は実地棚卸高によることになるので、実際に商品ごとの在庫数を数え、これに前述の評価方法によって使用する評価単価を乗じて計算するのじゃ。

したがって、期末棚卸高を確定するために必要な要素は、「実数」と「単価」となるが、この期末棚卸高を調整することで「利益操作」が可能となる。このため、税務調査では、不適切な処理がないかを確認するため、実地棚卸表と計算方法の確認や、場合によっては倉庫等に臨場して実査に及ぶこともある。

4、評価方法の確認と届出の有無

税務調査では、当然、期末棚卸高を計算する際の「単価=棚卸資産評価方法」の確認も行われる。(表1)で示した棚卸資産の評価方法は、商品、製品、半製品、仕掛品、主要な原材料等の区分ごとに選択して税務署に届け出ていなければならない。したがって、税務調査では、各区分で実際に届け出た評価方法で計算しているかがチェックされることになる。

この場合、注意しなければならないのは、企業会計上と税務会計上の評価の相違じゃ。よく見られるのは、会社が「企業会計上の売価還元法」を適用して期末棚卸高を算定していることから、税務署へも当然のごとく「売価還元法」を選択して届け出ている場合じゃ。企業会計と税務会計では売価還元法の計算方法が若干異なるため、税務調査では、届け出た」評価方法となっていないとの指摘をうけることになってしまう。

これでは、2.棚卸の評価方法のところで述べた通り、最終仕入原価法が適用されることになり、会社が決算で認識した売上原価と利益に影響を及ぼすことになる。このようなところにも、企業会計と税務会計の違いの影響が出てくると言うことを留意しておかなければならない。なお、この場合、前述したように、「棚卸資産の特別な評価方法の承認申請書」を税務署に提出して承認を得ることになる。

5、棚卸資産の評価損

棚卸資産は、実地棚卸で発見された汚損・破損やその他の価値の減少などで「評価損」を計上する場合がある。これは、企業会計上は適切な処理じゃが、法人税法上は、特定の要件を満たすものを除き、この評価損を課税所得計算上の損金の額に算入することができないことに注意が必要じゃ。なお、評価損の損金算入が認められる要件は以下のとおりじゃ。

(表2)棚卸資産評価損の損金算入が認められる場合
下表に掲げる事実によって、資産の価額が帳簿価額を下回ることとなった場合は、「期末時価(注1)」を限度として評価損を損金の額に計上することができる。

1.棚卸資産が災害によって著しく損傷したこと。
※風水害による商品の汚損・破損などの事実。
2.棚卸資産が著しく陳腐化したこと
※経済環境の変化等によってその商品の価値が著しく減少し、その価額が今後回復しないと認められる状態となり、以下のような事実が生じた場合。
イ.季節的に販売される商品で、売れ残ったものについて、今後通常の価額では販売することができないことが、過去の実績や業界の事情等に照らして明白であること。
ロ.その商品と用途が概ね同じで、型式、性能、品質等が著しく異なる(高性能等)新製品が発売され、今後、その商品を通常の方法では販売することができなくなったこと(PC等)。
3.上記1及び2に準ずる特別の事実があること
※破損や型崩れ、その他の品質劣化によって通常の方法では販売できなくなったこと。
4.内国法人について、更生計画認可(注2)の決定があったことにより、会社更生法等にしたがってその棚卸資産について評価換えの必要が生じたこと
5.内国法人について、再生計画認可(注2)の決定が生じたことにより、その棚卸資産の価額に評定を行ったこと

(注1)期末時価
棚卸資産の期末時価算定においては、商品または製品として売却することとした場合の「売却可能価額(当該棚卸資産を売却するとした場合に、通常つけられる価額)」から「見積追加製造原価」及び「見積販売直接経費」を控除した「正味売却可能価額」によることになる。

(注2)更正計画、再生計画については、会社更生法及び民事再生法関係について解説した、このシリーズ第19回「貸倒損失」の(表1)「貸倒損失を損金算入するための税法上の取扱い」注意書きに詳しいので参照のこと。

6、まとめ

棚卸資産に係る税務調査のポイントは、評価方法に関する事項と評価損の損金算入の是非じゃ。これらは、税法上の規定に注意する必要があり、適時の税理士のチェックが必要じゃ。中でも、資産の評価方法については、業種や取扱い資産によって評価方法の適・不適が異なること、また、文言が同じ評価方法でも、企業会計と税務会計における計算方法の違いがあるため、業界の事情や経理に詳しい税理士に相談することが望ましい。税理士紹介サービス等を利用して税理士を探すときは、自社の業態に詳しいことを条件にすることが肝要じゃ。

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