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さて、今回から2020年度税制改正における法人に係る各種制度の解説を進めていくことになる。本来は中小規模事業者向けの制度解説に絞るべきかもしれないが、国が日本の企業に対してどのようなスタンスで臨んでいるかを知っておくことも必要なので、大企業向けの制度も含めて解説することにした。初回は、創設される制度である「オープンイノベーション促進税制」と、制度の見直しが行われる「投資や賃上げを促す措置」及び「連結納税制度」の内容について見ていく。
1、オープンイノベーション促進税制とは
政府が言うところの「アベノミクス効果」によって増加した現預金等を活用し、イノベーションの担い手となるスタートアップ(注1)への新たな資金供給を促進して、成長につなげることを目的としたものじゃ。国内の事業会社や(注2)CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)から、創業10年未満・未上場のベンチャー企業に対する1億円以上の出資について、25%の所得控除を可能とするものじゃ。
もう少し具体的に言うと、事業会社が、2020年4月1日から2022年3月31日までの間に、このベンチャー企業の株式を出資の払込により取得した場合には、その株式の取得価額の25%相当額の所得控除を認めるという制度じゃ(ただし、これは特別勘定として経理した金額を限度とする)。
この適用を受けた事業会社が、その株式を譲渡した場合や配当の支払いを受けた場合等には、特別勘定のうち対応する部分を取り崩し、益金(税務上の利益)に算入することになる。つまり、ベンチャーへの出資の見返りとして税金は安くなるものの、その株式を他に譲渡したり、利益の配当を受けた場合には、取得時に控除された25%相当額が課税所得に加算され、税金がかかるということじゃ。しかし、特定の期間(5年間)保有した株式についてはこの限りにあらずじゃ。
(注1)スタートアップ
スタートアップ企業とも呼ばれ、新しいビジネスモデルで急成長を目指すベンチャー企業を指す言葉として用いられている。言葉の発祥は、米国のシリコンバレーで、IT業界から波及した言葉だが、いまでは日本国内で、中でも経済産業省が作成する資料に頻繁に使われるようになっている。
(注2)CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)
事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場のベンチャー企業に出資や支援を行う組織を指す。自社の事業内容と関連性のある企業に投資し、本業との相乗効果を目論んで運営される組織じゃ。
ここまでのオープンイノベーション促進税制の概要は次のように整理することができる。
(表1)オープンイノベーション税制まとめ
項目 | 内容 |
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出資を行う企業の要件 |
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出資の要件 |
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出資を受ける企業要件 |
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【注意】 事業者は、経済産業省に対し、1年間の出資案件に関して、「各出資が、事業会社、ベンチャー企業双方の事業革新に有効であり、制度を濫用するものでないこと」を決算期にまとめて報告しなければならない(事前認定は行わないと言うこと)。 |
2、投資・賃上げを促す措置(制度見直し)
現行制度を改正するものなので、現行制度と改正後の内容を以下に整理する。
(表2-1)特定税額控除規定の不適用措置の見直し
現行制度(適用期限は2021年3月31日) | 改正内容 |
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大法人について、次のいずれにも該当しない場合、その法人には研究開発税制その他一定の税額控除(これを特定税額控除(注3)という。)の規定を適用しない。
※ただし、所得金額が前事業年度の所得金額以下の場合には対象外とする。 |
・現行制度2)の要件について、「国内設備投資額が当期の減価償却費の3割の金額を超えること」とする。 ・不適用措置の対象に、5G導入促進税制の税額控除を加える。 これにより、改正後の特定税額控除は、「研究開発税制」、「地域未来投資促進税制」、「5G導入促進税制」となる。 |
(注3)特定税額控除
特定の地域、業種、中小企業を対象とする措置等を除く生産性の向上に関連する租税特別措置(研究開発税制、地域未来投資促進税制、情報連携投資の促進に係る税制)の税額控除を言う。
(表2-2)賃上げ及び投資の促進に係る税制の見直し(大法人向け)
現行制度(適用期限は2021年3月31日) | 改正内容 |
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《要件》
《税額控除》
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現行制度における要件2)について、国内設備投資額を当期の減価償却費の総額の95%以上とする。 |
3、連結納税制度の見直し
連結納税制度(注4)について、制度の適用実態やグループ経営の実態を踏まえ、起業の事務負担の軽減等を図る観点から簡素化等についての見直しを行い、損益通算の基本的な枠組みを維持しつつ、各法人が個別に法人税額等の計算及び申告を行う、「グループ通算制度」に移行する方式に改正するというものじゃ。
(注4)連結納税制度
企業グループという一体的な経営実態に着目して、その企業グループ内の法人の損益を通算することにより、企業グループを一つの法人として課税する仕組みじゃ。親法人である内国法人とその内国法人による完全支配関係がある他の内国法人(子会社のこと)の全てを一つのグループとして、親法人が連結グループ全体の所得を一つの申告書(連結確定申告書)に記載して法人税の申告・納付を行う制度じゃ。
(表3)連結納税制度の見直し概要
改正項目 | 内容 |
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個別申告方式へ | 企業グループ全体を一つの納税単位とし、通算して計算した法人税額等を親法人が申告すると言う現行制度に代えて、各法人が個別に法人税額等の計算と申告を行う方式に変更するもの。 |
損益通算・税額調整等 | 欠損が発生している法人の欠損金額を、グループ内の他の法人の所得金額と損益通算する(この損益通算効果は従前同様)。研究開発税制及び外国税額控除については、経営の実態を踏まえて現行制度と同様に、グループ全体を通算して税額控除額を計算することとするもの。 |
組織再編税制(注5)との整合性 | 通算グループの開始、グループ加入時の時価評価課税及び繰越欠損金のグループへの持ち込み等について、組織再編税制と整合性がとれた制度とし、開始・加入時の時価評価課税や繰越欠損金の持ち込み制限の対象を縮小するもの。 |
親法人の適用開始前の繰越欠損金の取扱い | 親法人も子法人と同様、グループ通算制度の適用開始前の繰越欠損金を自己の所得の範囲内でのみ控除する。 |
中小法人判定の適正化 | 通算グループ内に大法人がある場合には、中小法人特例を認めない。 |
地方税 | 現行の基本的な枠組みを維持しながら、国税の見直しと併せ、所要の措置を講ずる。 |
用時期適 | 2022年4月1日以後に開始する事業年度から適用する(適用年度を遅らせるのは、企業の準備期間等を考慮した猶予期間という位置づけ)。 |
(注5)組織再編税制
文字通り、組織を再編したときに課税される税金のことじゃが、具体的には、「合併」、「分割型分割」、「分社化型分割」、「株式交換」、「株式移転」、「現物分配」、「現物出資」が適用範囲となる。
4、まとめ
今回は、創設された制度の一部と見直しが行われる制度を中心に解説した。大会社が対象となるものも含まれており、自社にとってどこまでが知っておくべき事項なのかという疑問が湧くかもしれない。
そんなときは税理士にレクチャーを受けると良い。税理士は、顧問先に影響のある制度に習熟するため、たえず税制改正の内容を把握しようと努めているからじゃ。
もし、まだ顧問税理士契約を結んでいないなら、早めに対処したほうが良い。税制は、毎年制度の改廃があるため、経営者と経理担当だけでは対処しきれないからじゃ。税理士紹介会社に相談すれば、早期に最適な税理士を紹介してくれる。迷うまえに、まずは相談してみてはどうじゃ?