2020年度税制改正解説シリーズ 1 税制改正という制度の概要

目次

〔新しいシリーズ開始にあたって〕
今回から、「2020年度税制改正解説シリーズ」として、法人関係の主な税制改正の内容を紹介しようと思う。毎年度、経済の状況等を踏まえた税政策が「税制改正法案」として年初の通常国会に提出され、法人税法や所得税法等各税法の一部を改正して、租税特別措置法として施行されている。

これらは、「特別措置」という言葉からもわかるように、本来の税法規定に制限を加えたり、一時的に課税を止めたりするもので、時限措置になっている。このうち、創設された制度と、中小企業や小規模事業者の節税に役立つ制度を中心に解説していく。なお、2020年度税制改正法案は国会に提出され審議中であり、正式には3月には可決されて改正法が施行されることになる。このため、この講座で解説する内容は、あくまでも改正法ではなく「税制改正大綱」という原案であることに留意してほしい。

第1回目となる今回は、まず、この毎年行なわれる税制改正がどのような手順で行われるか、また、今回の法人関係の改正項目を含め、基本的な知識を整理するための解説から始める。

1、税制改正の流れ

正式な手続きとしては、2020年度のものを例にとると、2020年1月10日付文書で、内閣総理大臣から政府の「税制調査会長」あてに「諮問」することから始まる。どのような諮問かというと、2019年9月に、当時の税制調査会(以後、「税調」という。)が取りまとめた「経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方」という考え方が提示されており、これをベースとしたあるべき税制の具体化に向けた審議を求めたものなのじゃ。

この税調の取りまとめたものが、税制改正大綱となって、政府が通常国会に提出する税制改正関連法案に反映され、国会決議によって改正法が施行されるという流じゃ。ここで、興味深いのが、税調には、「政府税調」と「自民党税調」があり、自民党税調の影響力が強いと言う点じゃ。この二つの税調について概観してみよう。

まず、政府の税調じゃが、「委員」と「特別委員」で構成されており、どちらも、学者や実業界の有力者、自治体の首長、労組や消費者団体の代表など幅広い分野から人を集めている。税制調査会の設置に係る政令では、以下の役割を規定している。

(表1)税制調査会の役割

〇内閣府組織令の規定
第33条(税制調査会)

  1. 内閣総理大臣の諮問に応じて租税制度に関する基本的事項を調査審議すること。
  2. 前号の諮問に関連する事項に関し、内閣総理大臣に意見を述べること。

前項に定めるもののほか、税制調査会に関し必要な事項については、税制調査会令の定めるところによる。
この税制調査会令には、組織を構成する委員数、委員の任命権者、委員の任期、会の役職その他会運営に関する規定が定められている。

次に、自民党税調じゃ。自民党の税調は、毎年秋から年末にかけて、翌年度の税制改正について関係省庁や経済界、地方自治体と議論し、増税・減税や新税の導入、特例措置の内容等を含めた方針を固める作業を行っておる。

連立政権を組む公明党とともに、年末に与党税制改正大綱をまとめるが、この内容は政府が翌年の通常国会に提出する税制改正法案に反映されるため、自民党の税調の意見が毎年の税制に実質的に影響を与えているのが実態じゃ。

自民党の税調を主導しているのは、会長や小委員長をはじめとした10人程度の委員で構成される「インナー」と呼ばれる非公式の幹部会合なのじゃ。重要案件の場合、これをさらに5人程度に絞り込んだ「コア・インナー」と呼ばれる会合で議論しておる。自民党議員が出席する総会や小委員会と違い、開催予定や議題は公表されず密室で重要事項が決められるのじゃ。

この二つの税調、小泉首相時代に改革されるまでは、まず政府税調が大枠の方針を決めて、重要性の高い税率などは自民党税調が決定していたと言われておる。自民党税調が決定したものを政府税調が追認することが多く、自民党税調の力が強い時代が長く続いたが、民衆党政権時代を挟み紆余曲折を経て、政府税調がいまの有識者会議として確立されたことで、両者のパワーバランスが拮抗してきたと言える。

2、2020年度税制改正大綱

さて、ここから本題の税制改正の内容に入っていく。まず、改正法案の原案である2020年度税制改正大綱の概要から見ていこう。2020年度大綱は2019年12月20日の閣議で決定され、現在開会中の通常国会に提出されている。この大綱の概要は以下のとおりじゃ。

(表2)税制改正大綱・法人課税にかかるもの

カテゴリー 内容
オープンイノベーションに係る措置 事業会社から一定のベンチャー企業に対する出資について、その25%相当額の所得控除ができる措置を創設する。その際、一定期間(5年)内に、出資した株式を売却等した場合には、対応する部分の金額を益金に算入する仕組みとする。
投資や賃上げを促す措置 1)収益が拡大しているにも関わらず、賃上げにも投資にも消極的な大企業に対する研究開発税制などの租税特別措置の適用を停止する措置の設備投資要件について、国内設備投資額が当期の減価償却費総額の3割超(現行1割超)とする。
2)大企業に対する賃上げ及び投資の促進に係る税制の設備投資要件について、国内設備投資が当期の減価償却費総額の95%以上(現行90%以上)とする。
5G導入促進税制 超高速・大容量通信を実現する全国5G基地局の前倒し整備及びローカル5Gの整備に係る一定の投資について税額控除(15%)又は特別償却(30%)ができる措置を創設する。
連結納税制度の見直し 1)連結納税制度について、企業グループ全体を一つの納税単位とする現行制度に代えて、企業グループ内の各法人を納税単位としつつ、損益通算等の調整を行う仕組みとする(グループ通算制度への移行)。
2)地方税においては、現行の基本的な枠組みを維持しつつ、国税の見直しに併せて所要の措置を講ずる。
地方拠点強化税制の見直し 1)連結納税制度について、企業グループ全体を一つの納税単位とする現行制度に代えて、企業グループ内の各法人を納税単位としつつ、損益通算等の調整を行う仕組みとする(グループ通算制度への移行)。
2)地方税においては、現行の基本的な枠組みを維持しつつ、国税の見直しに併せて所要の措置を講ずる。
地方拠点強化税制の見直し 地方拠点強化税制における雇用促進に係る措置について、移転型事業の上乗せ措置における雇用者一人当たりの税額控除額を3年間で最大120万円(現行90万円)に拡充する。
地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)の見直し 地方創生応援税制(企業版ふるさと納税)について、手続きの抜本的な簡素化・迅速化を図るほか、税額控除割合を現行の3割から6割に引き上げる。
電気供給業に係る法人事業税の課税方式の見直し 電気供給業のうち、発電事業及び小売電気事業に係る法人事業税について、資本金1億円超の普通法人にあっては、収入割額、付加価値割額及び資本割額の合算額によって、それぞれ課することとし、標準税率等の見直しを行う。
消費課税(消費税の申告期限の延長) 法人税の申告期限の延長の特例の適用を受ける法人について、消費税の申告期限を1月延長する特例を創設する。

これが、2020年度税制改正における法人課税に係る措置概要じゃが、創設されたものと見直しのなされるものがある一方で、従前からの税制措置のなかでも措置期間を延長して適用されるものもあるのじゃ。中小事業者にとっては、こちらのほうがメインとなる。その主なものは次のとおりじゃ。

(表3)2020年度税制改正で措置期間が延長される制度

項目
中小企業者等の少額減価償却資産の取得価額損金算入特例措置の延長
中小法人の交際費課税の特例措置の延長
中小企業・小規模事業者の再編・統合等に係る税負担の軽減措置の延長

3、まとめ

以上の創設制度ならびに見直し及び措置期間延長制度につき、次回から個々に詳しく解説していく。交際費課税や減価償却資産の関係については、他の解説シリーズなどでも触れてきたが、中小企業にとっては最も有効な節税手段じゃ。

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