税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第7回《給与-その1》

目次

第7回以降は、役員給与を含めた、給与、賞与、法定福利費に至る一連の人件費科目について解説しよう。今回は、税務調査の視点から切り口を付けるので、役員給与と従業員給与等が混在した内容となるので留意すること。

1、役員報酬と役員給与の違い

このコラムでは、冒頭から「役員給与」という言葉を使っているが、読者からすると「役員報酬」ではないのか?といった疑問を感じているに相違ない。企業法務や税法などで使用する言葉は、何らかの意味をもっているようではあるが、釈然としないものが多い。この「給与」と「報酬」もその一つではないじゃろうか。

税制改正がきっかけなのじゃが、従来、「役員報酬」、「役員賞与」、「役員退職給与」の3区分で、それぞれ損金としての取り扱いが異なっておったものを、2006年の税制改正で、これらを「役員給与」と一括りにして、取り扱いも見直されたのじゃ。このときから、税法上は「役員給与」という用語が使用されているのじゃが、企業会計上は、従来通り「役員報酬」、「役員賞与」等の勘定科目が使用されておる。このような事情なので、言葉の違いは気にせず、本旨を掴むことに集中してくれるとありがたい。

2、税務調査で目を付けられる点

税務調査で給与の何を見るのか? と疑問をもつ者もいるのではないじゃろか。企業の経費の中で、最もウエイトが高いのが人件費であり、税金の額の計算に大きな影響を及ぼす要素じゃ。そのため、次のような点に着目して調査が行われる。

(表1)人件費に係る調査の着目点と整備すべき資料

着目点 準備(整備)資料
1 架空の人件費が計上されていないか。 ・賃金台帳
・給与振込明細
・源泉徴収台帳
・役員報酬に関する取締役会議事録
・給与規程、従業員名簿、同履歴書等
過大な役員報酬はないか。
使用人兼務役員に関し、役員賞与に該当するものはないか。
源泉徴収が適正に行われているか。

2-1、架空人件費について

架空人件費については、裏金作りにつながるので、給与の現金払いなどは要注意じゃ。今どき給料の現金渡しは一般的とはいえないが、領収印のある書類の提出が求められるので留意することじゃ。調査の仕方としては、給与台帳と振込データの照合が中心となるが、月次で、「総勘定元帳(給与勘定の総額を見る)」、「給与台帳の総額」、「振込金額総額」を見るところから始まり、これらが一致しない場合は、現金支給が疑われて、領収印のある書面の登場につながっていく。

また、データが一致したとしても、会社が架空の通帳を作って金を入金していれば、「簿外資金(裏金)」となるのは同じなので、振込先となっている従業員が実在するか否かも当然調べられる。そのために、従業員名簿や履歴書等も準備しなければならないのじゃ。疑えばきりがないが、タイムカードやICカードを使った勤怠管理システムなどもチェックされることになる。

《ちょっと脱線》
ちなみに、税務調査ではなく、労働基準監督署の臨検などでは、検査1~2カ月前ぐらいから予備調査をするのじゃが、例えば、金融機関などは、何年何月何日の何曜日の何時まで事業拠点に明かりがついていたかを記録して、検査当日に記録した日々の勤怠管理とともに、防犯ビデオをチェックするのじゃ。防犯ビデオに写っている職員の氏名を確認し、勤怠管理システムなんかと照合して残業管理の適正性を調べるのじゃ。まあ、こんな具合で、検査や調査というのは、ありとあらゆる手を使って調べるということじゃ。

2-2、役員報酬の適正性

役員報酬については、まず、報酬総額が株主総会などで機関決定された「総額」を超えていないか、そして、役員個々の報酬額についても、機関決定額を超えていないかが調べられるのじゃ。役員個々の報酬額は、株式会社で言えば、株主総会で決められた報酬総額の範囲内で、取締役会で決めるのが基本じゃ。このため、取締役会の議事録は必ず整備しておかなければならない。過大な報酬額は税金を計算する際の「損金」とは認めてもらえないということと、役員がお手盛りで報酬を決めることに対しても牽制が効いていることを知っておくことも大切じゃ。

毎月の報酬額に限らず、「保険料」や「家賃」を会社が負担している場合で、役員の給与と認定されるものがあれば、報酬の上限額を超えることもあるため、税理士と入念な打ち合わせが必要じゃ。これは、役員報酬とみなされる「経済的利益」と言われ、次のようなものが挙げられる。

(表2)役員報酬とみなされる経済的利益(例示)

会社から役員への経済的利益の付与とみなされる行為
物品などを贈与した場合で、その物品の資産としての評価額が毎月一定しているもの。
会社の資産を低い価格で譲渡した場合、その資産の時価額と譲渡価額相当額との差額が毎月一定しているもの。
居住用の土地や家屋の無償又は低い金額での賃貸の場合、通常の賃貸料との差額相当額。
居住用の土地や家屋の無償又は低い金額での賃貸の場合、通常の賃貸料との差額相当額。
3及び4以外の用役(注1)を無償又は低額な対価によって提供した場合で、通常受け取るべき金額との差額相当額で、その額が毎月、概ね一定しているもの。
毎月定額で支給される交際費のうち、その会社の業務の為に使用したことが明らかではないもの。
毎月負担する役員の個人的費用(例:住宅の水道光熱費など)
社交団体等の会員となっている場合で、その運営のために要する経常的費用の負担額で役員が負担すべき費用を支払っているもの。
役員を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約の保険料で、会社が負担したもの。

(注1)用役:経済的価値を生じると考えられる労働力や土地・その他財物などの働き。

2-3、使用人兼務役員に対する賞与の問題

使用人兼務役員というのは、役員のうち部長や課長など、その会社の使用人としての職制上の地位を有し、かつ、常時使用人としての職務に従事する者をいうのじゃが、次のような役員は、使用人兼務役員には該当しない。ちなみに、同族会社の使用人のうち、税務上のみなし役員とされる者も使用人兼務役員となれない点に留意じゃ(今回は、「みなし役員」の説明は省く)。

(表3)使用人兼務役員に該当しない役員

社長、理事長
代表取締役、代表執行役、代表理事及び清算人
副社長、専務、常務、その他これらに準ずる職制上の地位を有する役員
合名会社、合資会社及び合同会社の業務執行社員
委員会設置会社の取締役、会計参与、監査役、監事

使用人兼務役員で問題となるのは、対象者に支給された賞与で、他の使用人と比較して不相当に高額な部分がある場合は、役員賞与分として、役員賞与損金不算入の規定に抵触する可能性があることじゃ。使用人兼務役員と使用人に対する給与・賞与の取扱いは下記の通りであり、兼務役員に対する賞与支給にあたっては十分な\注意が必要じゃ。

(表4)使用人兼務役員と使用人の給与の取扱い

立場 給与 賞与
使用人兼務役員 基本的には、損金算入
不相当に高額な部分は損金不算入となる
使用人の職務対応分と判断されるものは損金算入
役員職務対応分とみなされるものは損金不算入
使用人(従業員) 損金算入 損金算入

2-4、源泉徴収の適正性

源泉徴収については、アルバイトの徴収区分で間違い多いと言われる。アルバイトの源泉徴収区分は次の通りじゃが、長期にわたって雇用しているアルバイトに間違いが多いようじゃ。
○給与所得者の扶養控除等申告書の提出がある者は、「甲欄で源泉徴収」
○給与所得者の扶養控除等申告書の提出がない者は、「乙欄で源泉徴収」

長期アルバイトで間違いが多いのは、給与所得者の扶養控除等申告書の提出がないにもかかわらず甲欄で源泉徴収しているケースじゃ。甲欄で源泉徴収する場合は、必ず「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出を受け、ファイルして調査時に提示できるようにしておく必要があるので、注意が必要じゃ。

3、まとめ

次回以降も、給与関係の解説が続くが、冒頭にも述べた通り、税務上の損金の大きなウエイトを占める勘定なので、最新の注意が必要じゃ。

特に役員に支給するものは要注意じゃ。イレギュラーな支出がある場合はもとより、システマチックに処理が行われるものであっても、見落としや知識不足で損金不算入になるようなケースもあるため、定期的に税理士のチェックを受けるなどして、税務調査で慌てるようなことがないようにすることが肝要じゃ。

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