収益認識会計基準シリーズ3回 5つのステップ その2

目次

前回は、収益認識に係る5つのステップの概要と、第1ステップである「顧客との契約の識別」について解説した。今回は、「顧客との契約の識別」の続きと、第2ステップとなる「契約における履行義務の識別」について解説するが、最初に、第1ステップに関し、従来の日本における会計基準と収益認識会計基準の比較表を掲載しておくので、読み進める際の参考にしてほしい。

1、(表1)顧客との契約の識別に関する取り扱い

従前の日本の会計基準又は実務上の取扱い 収益認識会計基準
契約識別 これまで一般的な定めはなかった。 基準の対象となる契約は、「書面」、「口頭」、「取引慣行」による場合も含まれる。
契約結合 「工事契約」及び「受注制作のソフトウエア」は、工事契約会計基準により、当事者間で合意された実質的な取引の単位を適切に反映するように、複数の契約書上の取引を結合するという定めが存在するものの、収益認識に係る明確な定めはなかった。 同一顧客とほぼ同時に締結した複数の契約について、同一の商業目的で交渉されたことなど、一定の要件を満たす場合には、それらを結合して単一の契約として処理する。
なお、この取扱いについては、代替的な取り扱いが認められる(本稿の3.(表2)参照)。
契約変更 工事契約及び受注制作のソフトウエアについては、工事契約に関する会計基準の適用指針によって、工事契約の変更は見積もりの変更として処理することになっているが、収益認識に係る明確な定めはなかった。 独立した契約として処理する方法」、「既存の契約を解約し、新しい契約を締結したものと仮定して処理する方法」、「既存の契約の一部であると仮定して処理する方法」等、複数の会計処理が認められており、契約変更内容ごとにその要件を判断して処理することになる。

2、顧客との契約の識別・・・契約の変更

顧客と締結した契約を変更することがあるが、収益認識会計基準においては、「契約の当事者が承認」した範囲または価格若しくはその両方の変更であると定義している。次の2つの要件の全てを満たすときは、既存の契約とは別個の独立した契約として会計処理を行うことになる。

(表2-1)契約の変更を独立した別個の契約として会計処理する場合の要件

  1. 別個の財またはサービスの追加により、契約の範囲が拡大されること。
  2. 変更される契約の価格が、追加として約束した財またはサービスに対する独立販売価格に、特定の契約の状況に基づく適切な調整を加えた金額分だけ増加されること。

この二つの要件を満たすか否かによって、会計処理は以下のように異なる。

(表2-2)要件満足の有無と会計処理

手順 区分 手続と会計処理
(表2-1)の2つの要件を満たしている場合。 (A)別個の独立した契約として会計処理する。
(表2-1)の2つの要件を満たしていない場合。 未だ移転していない財またはサービスが契約変更日以前に移転した財またはサービスと別個のものであるかを確認する。
(イ)手順2で別個のものと判断されたとき。 (B)既存の契約を解約し、新しい契約を締結したと仮定して処理する。
(ロ)手順2で別個のものではなく、履行義務の一部を構成する内容と判断されたとき。 (C)契約の変更を、既存の契約の一部であると仮定して処理する。
(ハ)手順2で(イ)と(ロ)両方の要素が含まれていると判断されたとき。 (B)または(C)の方法によって処理する。

3、代替的な取り扱い

収益認識会計基準では、同基準適用前まで行われてきた実務上の取扱いに配慮し、一定の範囲内で代替的な取り扱いが認められている。この場合、「契約の結合に関する代替的な取り扱い」と「契約の変更に関する代替的な取り扱い」に区分されるが、その取扱いは次のとおりじゃ。

(表3)代替的な取り扱い

代替区分 取り扱い
契約の結合 ・この解説シリーズ第2回で記載したとおり、一定の要件を満たす場合における複数の契約は結合することが原則じゃ。ただし、次のいずれも満たす場合は、複数契約を結合せず、個々の契約で定められた財またはサービスの内容を履行義務とみなし、個々の契約で定められた金額で収益を認識することができるのじゃ。

  1. 個々の契約が、当事者間で合意された取引の実態を反映する実質的な取引の単位であると認められること。
  2. 個々の契約における財またはサービスの金額が合理的に定められており、その金額が独立販売価格と著しく異ならないと認められること(他の契約の金額に実質的に影響を与えておらず、単体の取引価格と比較してもほとんど差がないと言う意味)。

・なお、工事契約及び受注制作のソフトウエアにおける複数の契約については、収益認識の時期及び金額の差異に重要性が乏しいと判断されるときは、その複数の契約を結合して単一の履行義務として識別することができることとされておる。

契約の変更 ・契約の変更があった場合は、原則として(表2-2)の処理となるが、契約の変更による財またはサービスの追加が、既存の契約内容に照らして重要性が乏しいときは、次のいずれの方法を適用することができるのじゃ。

  1. 契約の変更を、既存の契約を解約し、新しい契約を締結したものと仮定して処理する。
  2. 契約の変更を、既存の契約の一部であると仮定して処理する。

4、ステップ2 「契約における履行義務の識別」

顧客との契約の識別が終了し、会計処理の方法が決まると、次に「履行義務の識別」を行うことになる。履行義務というのは、顧客との契約において、別個の財またはサービス(注1)、または一連の別個の財またはサービス(注2)のいずれかを顧客に移転する約束をいう。

したがって、契約で約束した財またはサービスを評価して、どのような財またはサービスを顧客に移転することになるのかという履行義務を識別することになる。この履行義務は、収益認識会計基準を適用するにあたっての会計処理の単位となるとともに、第3ステップ以降の前提となるものじゃ。

契約における取引開始日に、顧客との契約において約束した財またはサービスを評価し、次の(1)または(2)のいずれを顧客に移転する約束であるかを判定して、それぞれについて履行義務として識別することになる。

  1. 別個の財またサービス(注1)
  2. 一連の別個の財またはサービス(注2)

(表4)注意書きの内容

(注1)別個の財またはサービスには、別個の財またはサービスの束を含む。
(注2)一連の別個の財またはサービスとは、特性が実質的に同じであり、顧客への移転のパターンが同じである複数の財またはサービスをいう。たとえば、年間を通してのシステム監理や、ビル・メンテナンスサービスなどが想定される。

それぞれの財またはサービスが別個のものであるか否かの識別は、契約における履行義務の単位をどこまで細分化すべきかという課題となるが、これは、個々の財またはサービスの内容の観点及び契約の内容の観点から検討することになり、具体的には、以下のような手順で行うことになる。

(表5)履行義務の識別手順

手順 視点と判断基準
個々の財またはサービスの観点での判断
(視点1)顧客は、各財またはサービス単独で便益を得ることができるか?
(または)
(支店2)顧客が容易に利用できる他の資源と組み合わせることで、その財またはサービスから便益を得ることができるか?
手順1における、(視点1)または(視点2)に適合する場合は、次の「契約の観点」での判断を行う。
当該の財またはサービスを顧客に移転する約束が、契約に含まれる他の約束と区分して識別できるか(その財またはサービスを顧客に移転する約束が契約の観点から別個のものといえるか)?
※例示
・ある財またはサービスを契約における他の財またはサービスと統合して重要なサービスを提供していないこと。
・ある財またはサービスが、契約における他の財またはサービスを著しく修正または顧客仕様としていないこと、若しくは、他の財またはサービスによって著しく修正または顧客仕様とされていないこと。
・それぞれの財またはサービスの間に、高い相互依存性や関連性がないこと。
3(1)手順1または手順2で該当しなかった場合は、「財またはサービスを一体として会計処理」する。
(2)手順2に該当した場合は、「別個の財またはサービスとして会計処理」する。

5、まとめ

履行義務の識別については、次回も解説が続くが、前回と今回で具体的な手順に踏み込んだ話しをしている。この手の話しは、専門用語と言うよりも、言葉の使いまわしがくどいこともあって、だんだん混乱してくるのではないだろうか。できるだけ、具体性を持たせて解説しようと考えておるが、理解しにくくなってきたら、顧問税理士に聞いてみるのもいいのではないか。

顧問契約がないなら、税理士紹介会社に相談すると良い。税理士と顧問契約を締結しておけば(契約の内容次第だが)、財務諸表の作成や記帳支援にとどまらず、経営状態の確認や最新の会計情報の提供を受けることができるので、経営者の相談相手としてもってこいの存在じゃ。検討してみてはどうじゃ。

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