税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第2回《交際費》

目次

第2回目の今回は、交際費について解説しよう。交際費は、税務調査のときに必ず調べられる費目で、しかも、必ずと言ってよいほど不適切なものが見つかって指摘される費目じゃ。この不適切な処理の原因は、「交際費等の範囲」や、「損金算入・損金不算入」の要件を理解していないことにあるのじゃ。よって今回は、損金算入と損金不算入、そして交際費等の範囲の解説から始めることにする。

1、損金算入と損金不算入の理解

会社の利益の計算方法は、「収入-費用」じゃが、法人税を計算する際の「課税所得」の計算方法は、「益金-損金」となり、この違いは、実際に支出した費用が全て損金とはならないという理不尽な結果となって経理担当者を悩ませることになる。この、費用と損金の関係を理解するには、まず会計制度の違いを知る必要があるのじゃ。

(表1)会計制度の違い

利益と課税所得の関係 会計制度 会計目的と費用・損金の性格
収益-費用=利益 企業会計 企業会計原則・会計基準に基づいて財務諸表を作成し、株主や金融機関などに公表するため、近い将来に発生する費用を見積もって計上することも求められる。
益金-損金=課税所得 税務会計 税負担の公平性を目的に、同一のルールの下で全ての課税対象法人から税金を徴収するため、現に発生し、負担が確定したものしか損金として認めない。
会計目的の違いから、費用と損金は、「計上のタイミング」と「対象範囲」が異なるという関係にあるのじゃ。「対象範囲」が異なるということは、損金として認められない費用があるということじゃな。また、勘定科目が「交際費」以外の勘定科目で処理されていても、税法上の交際費等と認定されれば、原則損金不算入となる。

(表2)損金となるもの

損金項目 内  容
売上原価、完成工事原価、その他原価 製造業の仕入れ、商店などの商品の仕入れ等
販売費、一般管理費、その他費用 人件費、図書・研修費、光熱費、家賃など
損失額 貸倒損失、災害や盗難による損失など
《損金計上におけるタイミングの判断》
〇発生主義:原価は費用収益対応の原則に従い、益金として計上するタイミングで損金算入される。
〇債務の確定:損金は次の3つの債務確定基準を満たす必要がある。

  1. 債務の成立(支払い義務が生じていること)。
  2. 給付の原因となる事実が発生していること(商品引渡し、サービスの提供の事実がある)。
  3. 金額を合理的に算出できること(支払うべき金額が明確になっていること)。

(表1)と(表2)で示したように、損金算入できる項目はあらかた決まっていているのじゃが、問題なのは、本来は損金算入できないものが、一定の要件の下で損金算入が認められるという点にある。交際費等は、原則として全額損金不算入とされているのじゃが、特例が設けられて、損金算入するための要件が定められている費用なのじゃ。

2、そもそも交際費とは

税制上は、「交際費等」と呼ぶ。国税局の交際費等の定義は、「交際費、接待費、機密費その他の費用で、その法人が得意先や仕入れ先、その他事業に関わりのある者等に対する接待、供応、慰安、贈答その他これらに類する行為(接待等という。)のために支出する費用」とされている。
その上で、以下の費用については、損金不算入の交際費等から除外して、損金算入ができる交際費になっておるのじゃ。

(表3)損金不算入対象の交際費等から除かれる費用
(1)専ら従業員の慰安の為に行われる運動会、演芸会、旅行等のために通常要する費用
(2)飲食その他これに類する行為のためにする費用(ただし、専らその法人の役員若しくは従業員又はこれらの親族に対する接待等のために支出するものを除く)であって、その支出する金額を飲食等に参加した者の数で割って計算した金額が5,000円以下である費用。この項目を適用するためには、次の事項を記載した書類を保存していなければならない。

  1. 飲食等の年月日
  2. 飲食等に参加した得意先、仕入先その他事業に関係のある者等の氏名又は名称及びその関係
  3. 飲食等の参加した者の数
  4. その費用の金額並びに飲食店等の名称及び所在地
  5. その他参考となるべき事項

※この5,000円以下に係る判断の際の消費税の取扱いについては、その会社が適用している消費税の処理方法に基づき、以下のように判断することになるのじゃ。

諸費税処理方法 判定金額 判  断
税抜処理 税抜金額5,000円で判定 5,000円以下の飲食費等に該当する。
税込処理 税込金額5,400円で判定 5,000円以下の飲食費等に該当しない。

 

(3)その他の費用

  1. カレンダー、手帳、扇子、うちわ、手ぬぐいその他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
  2. 会議に関連して、茶菓、弁当その他これらに類する物品を贈与するために通常要する費用
  3. 新聞、雑誌等の出版物又は放送番組を編集するために行われる座談かその他記事の収集のために、又は放送のための取材に通常要する費用

※費用の中身を見てみると、1.は、通常、従業員の「厚生費」として支出され、3.は宣伝広告費や会議費として処理するものじゃ。2.は、かなり要件がきついが、5,000円以下ということと、取引先等事業に関わる社外の人間が必ず入っていなければならないことがポイントじゃ。これらの要件を満たせば、処理する勘定科目は何であれ、損金算入ができることになるのじゃ。
このあたりのことは、日常的な経理処理を行うときから意識しなければならないため、定期的に税理士のチェックを受けるのが望ましい。四半期に一度程度のチェックで、不適切な処理があれば決算までに修正が可能じゃ。

3、交際費損金算入の特例措置の要件

前述のとおり、原則として全額損金不算入である交際費等には特例が設けられ、この特例による交際費の損金算入限度額は、会社の資本金の額によって次のように定められておるのじゃ(2014年4月1日以後に開始する事業年度)。

(表4)資本金の額と損金算入限度額

会社の資本金の額 損金算入限度額
1.期末の資本金の額が1億円以下 次のうち有利な処理を選択できる(適用期限は2020年3月31日まで)
ア.飲食費(社内接待分除く)の50%を損金算入
イ.年間800万円以下の交際費を全額損金算入
※税制特別措置法による特例は次元措置の為、期限が切れれば廃止となるか、制度が延長されるか、新しい制度となるかを注視しなければならない。
2.期末資本金の額が1億円超 飲食費(社内接待分除く)の50%を損金算入

4、交際費と間違えやすい経費

税務調査では、交際費で処理した費用とともに、交際費以外の勘定科目で処理したものの中に交際費等に該当するものがないかも調べられるので注意が必要じゃ。間違えやすい費用を以下に挙げてみた。
(表5)税務上の処理を間違えやすい例

費用の支出目的 当初の処理 税務上の処理
社員同士が仕事の打ち合わせを名目に、居酒屋で飲食し、一人当たり3,000円の費用を支出した。 会議費で処理し、税務上損金算入していた。 交際費(社員の交流目的)として損金不算入
役員3人と総務部長ほかの幹部社員3名が慰労会を開催し、厚生費として処理した。 福利厚生費で処理し、税務上損金算入していた。 交際費として損金不算入(特定の役員等しか参加していないため厚生費の要件を満たしていない。損金算入の要件も満たしていない)
得意先を接待した際に使用したタクシー代を旅費交通費で処理した。 旅費交通費として処理し、税務上損金算入していた。 交際費(飲食費とともに交際費となるため、要件を満たせば損金算入可)

5、損金算入できる一人当たり5,000円以下の飲食代

(表3)の2.で示したように、一人当たり5,000円以下の飲食費は、要件を満たせば交際費等であっても、損金不算入の対象となる交際費等から除外することができる。これは、資本金が1億円以下の会社にとっては、800万円の損金算入限度額以外に損金算入できる点で有益な制度じゃ。

ただし、その分、要件が厳しいので注意が必要じゃ。(表2)に記載した要件を満たすためには、日常的に、適切に管理できるよう1から5を網羅して記録を整備しなければならないが、決まった様式がないため、税理士に相談するか作成してもらうのが賢明じゃ。また、(表5)でも示したように、取引先等社外の人間を含まない飲食等は、損金不算入の交際費等となるので、税務上の判断を念頭において、経理部門だけではなく、全ての役員・従業員に対して制度の周知徹底を図り、適切な日常処理に努めなければならない。

6、まとめ

今回は、税務調査で最も指摘されることが多い交際費等について解説したが、理解は進んだじゃろうか。会社によっては、社内のみならず取引先等との間で各種の制度や習慣が定着していることも考えられるが、「交際費規程」を設けて、決裁権限と支出の手順を定め、支出伺いから事後報告(領収書・精算明細の添付)に至るプロセスを明確にすることで、所要の記録を残せるだけでなく、不正支出や無駄遣いの牽制にもつながるのじゃ。このあたりは、税務のプロである税理士の助言を得て、入念な準備をすることが肝要じゃ。

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