会社の会計シリーズ(理解編)税効果会計の1

前回でキャッシュフロー計算書の解説が終了しましたので、本来ならば「連結財務諸表の作成」について解説すべきところですが、子会社や関連会社がない企業も多いことから、連結会計については別の機会にということで、今回からは会計ビックバンの点火装置ともなった「税効果会計」について解説したいと思います。
税効果会計とは?
税効果会計というのは「税と会計のタイミングの差を調整する会計手法」です。税効果という名前からどんな税法上の効果があるのかという視点で捉えようとすると、混乱しやすいので注意してください。
企業会計に影響を及ぼす税法とは
まずは、どうしてこのような会計手法が必要なのかについて解説します。税効果会計が導入されるようになったのは、1999年からですが、それまでの「会計」は、本来は全く別物であるはずの「税法」の影響があり、正しい数値で財務諸表を作成できていませんでした。
ここでいう税法とは、主に法人税法のことを言いますが、この法令には「会計」についての規定があります。法人税法は、会社にどのようにして税金を課し、徴収するかを定めた法律ですので、基本的に会社は税法に従って財務諸表を作成する義務はありません。しかし、実態としては税法にしたがって財務諸表を作成しており、会社の経営実態を表すことができない点に問題があったわけです。
これは、法人税の仕組みに大きく影響を受けているためです。税法そのものは、国が政策的な意図をもって決める事項が多いので、理屈では説明しきれない決まりが沢山あります。全て覚える必要はありませんが、税法の「捉え方」は知っておきましょう。
利益と課税所得
会社が財務諸表を作成する場合、収益から費用を差し引いた「利益」を計算することが目的ですが、税法の場合は「課税所得」を算出して税率を乗じ、税額を計算するのが目的です。これまでも、この講座の基本編などで何度も触れてきましたが、課税所得は「益金」から「損金」を引くことで算出されます。
普通に考えれば、「益金」は企業会計上の収益に「損金」は費用に似ていますが、この「益金・損金」と「収益・費用」は計上されるタイミングと対象となる範囲が異なっており、これが税効果会計を理解するための大きなポイントとなります。
税と会計の目的の違い
税法は企業にできるだけ多くの税金を課すことが目的で、企業会計は利害関係者に、生み出した利益などを正しく示すことが目的です。企業にとっては経営の実態を正しく示すと、税法との仕組みの違いによって課税所得が増え、税金が増えると言うジレンマがあります。以下、例を示して解説します。
収益・費用と益金・損金の関係
収益:1,000、費用:700、利益:300、税率:30%という企業の場合
1)収益と益金、費用と損金が同じ場合は、課税所得は300となるため、税率の30%を乗じて税金は90となる。
2)税法の規定で、費用700のうち400しか損金として認めてもらえない場合、課税所得は1,000-400で600となり、税率30%を乗じると、税額は180に跳ね上がる。
※益金の額が大きいほど、また損金の額が小さいほど課税所得が大きくなって、税額も多くなります。税法では、益金が多くなり損金が少なくなるような決まりがたくさん定められています。企業会計は、会社の経営実態を正しく表すためのものですが、税金が増えることを嫌って、税法に従って計算書類(財務諸表等)を作成するケースが多くありました。
損金が否認(認めてもらえないこと)されて課税所得が増加する具体例
上記企業の例で、費用700のうち400しか損金として認めてもらえない場合、差額の300はどなるのかについての解説
企業会計の立場では当然に費用として計上しなければならないものでも、税法上は、課税所得の計算上その一部しか「損金」として認めないものがありますが、一番分かりやすいのが「貸倒引当金」です。この設例で、損金として認めてもらえなかった300が貸倒引当金だとしたら、どのような扱いとなるのでしょう。
貸倒引当金は、債権のうち回収不能となることが見込まれる部分について予め費用として計上するものです。貸倒れは、事業を行う上ではリスクとして把握しなければならないものであり、企業会計上は、貸倒引当金を全額計上することで「費用・収益」が対応して会社の実態を正しく表すことにつながります。
しかし、税法では、貸倒引当金の繰入(計上すること)には限度額を設けており、全額を損金として認めないのが前提となっています。計上した全額を損金として認めると、貸倒れの危険がない債権額について貸倒引当金を計上して課税所得を減らし(これを利益操作と言う)、税額を減らそうとする会社が現れるためです。真面目に税法を守る会社とそうでない会社の不公平を防ぐ狙いもありますが、いずれにしても税金をたくさん取ろうとすることにかわりありません。
このように税法では、貸倒引当金の繰入額に限度額を設けているのですが、企業会計の原則に従えば貸倒れの危険のある債権については、貸倒れ相当額をその年度の費用として全額計上しなければなりません。企業会計制度を遵守して、貸倒引当金全額を計上した場合に設例の300部分はどうなるのでしょうか。この税法上の限度額を超えた部分300は、法人税の申告上「課税所得に加算」されて、結果的に課税されることになります。したがって、会計上の費用は減らず、税金だけが増えることになり、結果として利益が減ることにつながってしまうのです。これを「有税処理」と呼びますが、企業会計の観点からは本来は払う必要のない税金なのです。
ただし、例えば翌年度に入って実際に有税処理の対象となった取引先が経営破綻し債権が回収できなかった場合は、その年度の損金として認めてもらえるため、先か後かの問題に見えてしまいますが、このタイミングのズレが税法と企業会計との問題の根源です。
※1999年まで税法に影響していたのはこのような部分です。税金ばかりとられて利益が減れば、その年度の配当も減るため株主等からの経営者の評価は下がります。無駄な税金が発生しないよう税法の範囲内で費用を計上しようということにつながるわけです。
しかしながら、ここには重大な問題が潜んでいます。貸倒引当金など税法の影響をうけて正確に示されていない費用が存在すると、「含み損」という隠れた負債が利害関係者に知らされないことになってしまいます。毎年の財務諸表で適正水準の利益が計上され、配当も実施されていれば、株主等は経営の実態に気付くことはないでしょう。かつて、大手証券会社や銀行が経営破綻したのは、突然破綻したように見えるが、正にこの含み損が限界を超えたからです。
会計制度を正常にもどすための手段
このように大手企業の経営破綻が一つのきっかけとなって、「会計ビックバン」と呼ばれる様々な会計制度改革が進められたのですが、税効果会計は、この税法と企業会計とのタイミングの違いによる差異を対象とした仕組みとなります。従来の問題点は、設例でも示したように、「会計上支払うべき税金」ではなく「税務上、実際に支払った税金」が財務諸表(損益計算書)に載ってしまっていたことです。
また、もう一つの問題は将来の税金の支払額に与える影響が「貸借対照表」に記載されていなかったことです。税法にひきずられて支払った税金は、そのタイミングの違いが原因で「早く納めてしまった税金」です。これは、逆からみると将来の税金の支払額が減ることになるはずです。将来の支払額が減れば、将来の会社の利益は増えることになるのですが、従来の貸借対照表では「税金の支払額が減るという情報」が記載されていなかったということです。
このような問題を解決し、正常な会計制度に戻すために導入されたのが税効果会計です。税効果会計では、損益計算書に「会計上支払うべき税金額」が記載され、貸借対照表には「将来増減する税金の額」が記載されることになりました。
まとめ
次回は、貸借対照表と損益計算書のどこが正常化されたのかを解説します。ただ、この税効果会計というのは収益・益金や費用・損金、利益と課税所得など、言葉に振り回されて混乱してしまうかもしれません。ちょっと本気を出して学習する必要がありますが、顧問の税理士にレクチャーを受けるのも有益です。

今井 俊樹
ユーザーが本当に良い選択ができるマッチングサービスを作りたいという思いから、「税理士紹介ラボ」の立ち上げを起案。企業間のアライアンス事業や、WEBサービスの企画・運営を手掛けた経験を基に、依頼者と税理士がwinwinの関係になれるサービスを提供。500名以上の税理士と面談を行い、毎年3000件以上のマッチングを成功させている。
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