税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第19回《貸倒損失》Column

vol.0052
ラボン博士
今回は、ちょっと生臭い話しになるが、取引先の経営難等に伴う「貸倒損失」の計上について解説しよう。貸倒関係は、次回に解説を予定している「貸倒引当金」を含め、税制上はかなり細かいルールが張り巡らされておるので、現実的な対応に当たっては、税理士と相談しながら進めることになる分野じゃ。

1.貸倒損失とは

会社法及び企業会計においては、「売掛金」、「貸付金」及びその他の「金銭債権」については、原則として、その債権額をもって残高を計上し、取り立て不能のおそれがあるときは、その「見込額」を控除することになっておる(会社計算規則5④及び企業会計原則)。そして、これが現実となり、完全に取り立て不能となった場合は、その不能額を、「貸倒損失」として処理し、貸借対照表には計上しないという会計処理を行うことになるが、この点については、基本的には税法も同様の立場をとっておる。


しかし、実際には、債権が回収不能に陥ったかどうかの事実認定をめぐっては、会計と税法との間で認識の相違による税務上のトラブルとなることが多い。このため、法人税法基本通達で、以下のとおり、税務上の取扱いが示されておるのじゃ。

(表1)貸倒損失を損金算入するための税法上の取扱い

基本通達番号 貸倒れの態様と対象となる額
9-6-1
(金銭債権)
《金銭債権の全部又は一部の切り捨てをした場合の貸倒れ》 ※法人の有する金銭債権について、次に掲げる事実が発生した場合は、その金銭債権の額のうち次に掲げる金額は、その事実の発生した日の属する事業年度において貸倒れとして損金の額に算入する。 1.更生計画認可の決定又は再生計画認可の決定(注1)があった場合において、これらの決定により切り捨てられることとなった部分の金額。 2.特別清算(注2)に係る協定の認可の決定があった場合において、この決定により切り捨てられることとなった金額。 3.法令に基づく整理手続きではなく、次に掲げる、関係者の協議決定で切り捨てられることとなった部分。 イ.債権者集会の協議で、合理的基準によって債務者の負債整理を定めたもの。 ロ.行政機関又は金融機関その他の第三者のあっせんによる当事者間の協議により締結された契約で、その内容がイに準ずるもの。 4.債務者の債務超過の状態が相当期間継続し、その金銭債権の弁済を受けることができないと認められる場合において、その債務者に対し書面により明らかにされた債務免除額(内容証明付き郵便で送達した債権放棄の書面)。
9-6-2
(金銭債権)
《回収不能の金銭債権の貸倒れ》 ※法人の有する金銭債権につき、その債務者の資産状況、支払能力等から見てその全額が回収できないことが明らかになった場合、その明らかになった事業年度において、貸倒れとして損金経理をすることができる。 この場合において、その金銭債権に担保物があるときは、その担保物を処分した後でなければ貸倒れとして損金算入ができない。なお、保証債務についても、現実に履行した後でなければ貸倒れの対象とすることはできない。
9-6-3
(金銭債権ではない債権)
《一定期間取引停止後、弁済がない場合等の貸倒れ》 ※法人の有する売掛債権について、債務者に次の事実が生じた場合は、その売掛債権につき、備忘価額1円を残して(注3)貸倒れとして損金に算入することができる。 イ.債務者との継続的な取引を停止したとき(最後の弁済期又は弁済が取引停止以後である場合は、最も遅いとき)以後1年以上を経過した場合(ただし、担保物がある場合を除く。)。 ロ.同一地域にある債務者に対して有する売掛債権の総額が、その取り立てのために要する旅費その他の費用に満たない場合で、債務者に対し支払いを督促したにもかかわらず弁済がないとき。

(注1)更生計画と再生計画 更生計画とは、会社更生法に基づいて、経済的苦境に立たされた株式会社が作成する「会社更生計画」を言う。この会社更生手続きにおいては、更正会社の財産に関する管理処分権は、裁判所が選任した管財人が有することから、実務上は、会社更生計画も管財人が作成することになる。

一方、再生計画とは、民事再生法に基づいて、経済的苦境に立たされた債務者が自らの手で作成する「再生計画」を言う。この民事再生手続きにおいては、多数の債権者の同意及び裁判所の認可を受けた上で、その再生計画に基づいて弁済を行っていくことになり、会社更生法に比べ、債務者が関与できる部分が多いのが特徴じゃ。


(注2)特別清算 清算中の株式会社の清算の遂行に著しい支障を来す事情がある場合、または債務超過の疑いがある場合に、裁判所の監督の下で行われる清算手続きを言う。


(注3)備忘価額を残す意義 貸倒れ処理することで、貸借対照表からその債権が消えることになるが、この区分では、単に取引が停止している状態であり、法律上も実体としても「倒産」した事実がないため、「形式的要件」に基づく貸倒れであるとの記録を残すために、あえて備忘価額という条件をつけているのじゃ。


2.税務上の貸倒れが容認されるための要件の整理

(表1)で示したように、税務上、債権等の貸倒れ経理が認められるためには、その態様別に要件があるわけじゃが、この通達で示されたものを「貸倒れの区分」に置きかえると以下のとおりとなる。

区分 (表1)の基本通達による態様
法律上の貸倒れ 基本通達番号9-6-1(会社更生法・民事再生法に基づく債権カットほか)
事実上の貸倒れ 基本通達番号9-6-2(債務者の債務超過、廃業、死亡、行方不明を含む)
形式上の貸倒れ 基本通達番号9-6-3(信用状況の悪化から取引を停止・1年以上弁済なし等)

このように、基本通達では「法律上の貸倒れ」、「事実上の貸倒れ」、「形式上の貸倒れ」の各区分のどれかに該当すれば、税務上の貸倒れ経理を認めているのじゃが、最も重要なのは、これらの要件を満たすだけの事実があったか否かを会社が判断しなければならないという点じゃ。税務調査で否認されれば元も子もないので、事前に税理士とも相談し、確実に要件を満たしていることを確認することが肝要じゃ。


3.税務調査に備えて

以上のように、税務上の貸倒れに係る損金経理にはクリアすべき要件が多いため、実際に貸倒れ処理が必要となった場合には、税務調査を前提とした準備が欠かせない。以下、税務調査対応について解説する。


3-1.子会社に対する債権放棄等

一般的な取引先以外でも、経営難に陥った子会社等系列会社の整理や、倒産を防止するための措置として親会社が債権を放棄するケースが増えてきておる。この債権の放棄が、寄附金に該当するか否かで、その会社の課税所得の計算に大きな影響が及ぶことになる。このため、このような措置を講じるときは、税理士同行の下、国税局の審理担当部署で事前に照会し、措置の適正性を確保することが重要じゃ。


3-2.整備すべき資料等

貸倒れ処理の前提となる「相手先からの回収不能」の証明責任は会社にある。このため、税務調査に備えて関係帳票や記録を整備しておく必要があるが、その内容を整理すると以下のようになる。


(表3)税務調査に備えて整備すべき資料等

準備すべき項目 資料等
相手先の債権確定額 取引関係帳票、請求書(督促通知含む)控え、取引の契約書、担保物件評価資料等
回収行動の疎明資料 督促状(配達証明付き郵便が望ましい)控え、債権回収担当者及び営業担当者等の回収行動の報告書及び稟議書等
債務者の支払能力判断材料 債務者の財務諸表(直近のものを含め最低3年程度)、信用調査会社の調査書、債務者及び管財人とのヒアリング記録等
貸倒損失の額 会社更生法や民事再生法適用の場合はその認可決定内容のわかる書面。それ以外は債権放棄通知書(内容証明付郵便)等

これらの中で、最も留意しなければならないのは、債権回収担当者等が債務者と折衝したときの記録じゃ。話した内容を要約するのではなく、細部にわたるまで記録に残すこと、また、その記録を添付し、社内機構に従って正式に報告書を提出しておくことが重要じゃ。


4.まとめ

「貸倒れ」という言葉自体がネガティブだし、できれば到来してほしくない事態じゃ。しかし、事業というのは様々なリスクを抱えていて、この貸倒れリスクも避けて通れないリスクの一つじゃ。避けて通れないなら、できるだけの備えをするに限る。この方面に強い税理士を確保しておくのも一つの方法じゃ。税理士紹介サービスを利用するなら、条件に、「債権管理に強い先生」と加えておくことを忘れないように!





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