税務調査を意識した会計処理と税理士との付きあい方 第10回《福利厚生費》Column

vol.0043
ラボン博士
シリーズが始まって10回目を迎えたが、今回も人件費に関係する費目である「福利厚生費」について解説しよう。会社が社員に対して福利厚生を目的に支出した費用でも、給与とみなされれば源泉徴収の対象になるため、このあたりがこの費目を扱う際のポイントになる。

1、現物給与とみなされる支出はないか?

冒頭で述べた、「給与とみなされる支出」には「現物給与」という概念がある。税務調査で着目される支出は以下のとおりじゃ。

(表1)調査対象となる給付と整備すべき資料等

項目 整備する資料
(1)社員旅行 社員名簿、社員旅行参加者名簿、旅程表、旅行請求書、福利厚生に関する規程類
(2)借り上げ社宅制度がある場合の個人負担額 社宅等賃貸借契約書、個人負担額振替帳票
(3)社内融資制度がある場合の貸付け利息 金銭消費貸借証書、利息計算書・請求書
(4)社内表彰制度や永年勤続表彰制度における給付(旅行券、商品券等) 就業規則、社内表彰規程、表彰者名簿(勤続年数等が分かる資料)
(5)制服・作業服等の支給 制服等支給に係る規程、見積書・請求書

以下、これらの支出にかかる調査ポイントと留意事項を整理する。なお、税務調査においては、(表1)の整備する資料を閲覧し、資料と会計処理の整合性ならびに税務上の適正性がチェックされるので留意しておくこと。


1-1社員旅行

次のいずれの要件も満たす場合は、原則としてその費用を、参加した社員の給与とせず、福利厚生費として扱うこととなっている。
ア.旅行の期間が4泊5日以内であること(海外旅行の場合は、外国での滞在日数が4泊5日以内)。
イ.旅行に参加した人数が全体の人数(在籍者)の50%以上であること(工場や支店ごとに行う場合は、その職場ごとの人数の50%以上であること)。


なお、この要件に該当している場合でも、自己都合で旅行に参加しなかった社員に金銭を支給しているときは、参加者と不参加者の全員に、その不参加者に対して支給する金銭の額に相当する額の給与が支給されたものとみなされるので注意が必要じゃ。また、次のような旅行は、社員旅行に該当せず、その費用は給与または交際費として処理しなければならないことにも留意しなければならない。


(表2)福利厚生としての社員旅行とされないもの

(1)役員だけで実施する旅行
(2)取引先に対する接待、供応、慰安目的のための旅行
(3)実質的に私的旅行と認められる旅行
(4)金銭との選択が可能な旅行


1-2社宅制度がある場合の個人負担額

会社が社員の社宅としてアパートなどを借り上げ、会社名義で契約して賃貸料も会社が負担し、社員に対して貸し付けるケースがあるが、この場合は、社員が会社に対して賃料の一部を支払う必要があるのじゃ、このときの個人負担の額が適正額か否かは、当該社宅の賃貸借契約を基に、「通常の賃貸料」の50%以上を社員から徴収しているか否かで判断される。社員の負担額が、「通常の賃貸料」の50%に満たない場合は、その差額を社員に対する経済的利益として給与とみなし、課税対象となるのじゃ。
なお、「通常の賃貸料」とは、賃貸借契約書に記載された額ではなく、次の算式で計算された額となるため、実際に会社が負担する額より低い額となる。


(表3)借り上げ社宅等の賃貸借料の計算

当該年度の家屋の固定資産税課税標準額×0.2%+12円×その家屋の総床面積(㎡)÷3.3㎡+当該年度の敷地の固定資産税標準額×2.22%


1-3社内融資制度を利用した場合の貸付利息

会社によっては、会社の自己資金または金融機関等からの転貸資金を活用し、社員の福利厚生目的で貸付金制度を設けている場合がある。この制度を利用した際の利息負担の水準が調査の対象になるのじゃ。税務上、適正利率とされる利率は以下の通りじゃ。

(表4)社内貸付制度における適正利率

ア.他からの転貸資金(会社が借りて社員に貸し出す)の場合:会社の借入利率
イ.会社資金の場合:年1.6%(年度によって国税庁の基準は変わる。これは、令和元年の場合)

この適正利率に満たない利率で計算している場合は、その差額は経済的利益となり、給与課税されることになるのじゃ。



1-4表彰制度等における給付

表彰制度には、「永年勤続表彰」のように永年その企業に貢献したことをもって表彰するものと、担当業務等の成績優秀者等に与えられる「インセンティブ要素」の強いものがある。前者は、会社の何某かの規程によって勤続年数その他の要件とともに表彰内容が決められているし、後者のほうもまた、達成すべき目標値等が定められているのが普通じゃ。
同じ表彰制度でも、前者と後者では性質がことなるため、税法上の扱いも異なる。このあたりを中心に整理してみよう。
(表5)表彰制度等における給付の取扱い

永年勤続表彰 その他表彰制度(インセンティブ要素)
《福利厚生費として認めてもらうための要件》 ・規定によって要領が定められている。
・給付される記念品等の額が社会通念上妥当な額であり、概ね10年以上の在職者に5年以上の間隔をおいて支給されるものであること。なお、記念品等が旅行券や全国共通商品券であるときは、それぞれ以下の扱いとなる。
ア.旅行会社が発行する旅行券の支給
【支給額】
・勤続年数満25年の者:10万円相当旅行券
・勤続年数満35年の者:20万円相当旅行券
【旅行条件等】
・支給後1年以内に旅行を実施すること。
・旅行の範囲は、支給した旅行券の額からみて相当であること。
・旅行実施後、報告書及び資料等を提出すること。
・旅行が1年以内に行われなかった場合は、その旅行券を会社に返還すること。
以上の要件を満たさない場合は、給与として課税される。
※旅行券は有効期限がなく換金性があり、実質的に金銭の支給と同様の効果があるため、原則として給与等として課税されるところ、一定の要件のもとで「福利厚生費」として認めるという主旨であることに留意。
イ.全国共通商品券の支給
現物支給に代えて金銭で支給したものとみなされ、課税される。旅行券に比べ、商品券は流通性が高く換金が容易であることから、金額に関係なく給与として課税される点に注意。
《そもそも福利厚生費とはならない》
売上目標の達成など、一定の業績に対して月間又は年度で表彰し、報奨金や商品券などを支給する制度があるが、これは、金額や理由を問わず支給された社員の給与として課税されることになるので注意が必要じゃ。

この手の支出は、会社側の思い込みで「福利厚生費」として処理することが多く、税務調査でもしばしば修正を指示されるため、処理前に確認が必要じゃ。

1-5制服・作業服等の支給

会社が、社員に対して制服・帽子、シャツ、ネクタイなどを支給した場合は、職務の性質上、制服・作業服等を着用しなければならない者に対するものであれば福利厚生費として認められる。一方で、スーツなど、どのような場所でも着用できる汎用性の高いものは、給与として課税対象となるので注意が必要じゃ。


2、まとめ

福利厚生費は、交際費や給与の扱いを受ける性質のものが混在する可能性が高く、また、毎月発生するものでもないため、支出目的が同じでも、処理が年度によって異なるようなケースも見受けられる。税務調査で不備を突かれないよう、予め支出場面を想定し、事業計画策定のタイミングで、税理士と相談しながら税制上の取り扱いを意識した支出計画を作成しておくとよい。





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